消費者にとってアフォーダブルであることを重視

 勝者総取りと言われるように、アプリを使ったサービスはまず、シェア拡大を狙うことが多い。しかしWoltではシェアを重視していないという。

「国内で何パーセントというようなマーケットシェアは気にしておりません。それよりも、各エリアでベストなサービスを提供できるよう、心がけています。Wolt内で、消費者が欲しいと思える物をWoltに掲載されている店舗が提供できる状況にする必要があります。その上で重要なのが、“アフォーダブル”であること。消費者が価格とサービスの質を比較し、納得することです」(同)

「アフォーダブル(affordable)」とは「お手頃な」「手の届く」という意味で、ニュアンスとしては「納得のいく値段」を言い表す時に用いる。Woltでは注文から30分以内の配達を目標としており、スピードの速さが売りだという。そして最近ではお得感を打ち出すべく、店頭価格による集客も行っている。

「日本では一般的に、デリバリーのメニュー価格が実店舗での価格よりも高く設定されています。このため、デリバリーサービスを使うことについて『贅沢だ』と考える人が多く、消費者がフードデリバリーを利用する際の障壁になっています。海外では、デリバリーの商品価格と店頭の価格は同じであることが一般的で、このため世界の他の都市と比較すると、日本のユーザーのデリバリー利用率は著しく低い。便利なサービスを気軽に利用してもらえるよう、メニューの価格を店頭価格と同じにする施策を行っています」(同)

 日本の通常のフードデリバリーでは、商品価格に加え、サービス料や配達料などの手数料が加算されるが、そもそも商品価格が店頭価格よりも高く設定されていることが一般的だ。Woltは4月から札幌市と広島市で「デリバリーなのに店頭価格」を開始、対象店舗の商品価格を店頭価格と同額に設定している。この取り組みは今、北海道内の他のエリアにも拡大している。

広がる小売との連携

 Woltは、2021年からコンビニエンスストアや北海道地盤のドラッグストアチェーン「ツルハドラッグ」との連携を始めるなど、ドラッグストア、スーパー、コンビニエンストア、百貨店などの小売事業者との連携も活発に行なっている。飲食店から料理を配達するだけでなく、小売店舗で販売する食料品や、洗剤や掃除用品など日用品の配達にも対応している。

「2020年以降、Woltは『ポケットの中のショッピングモール』をコンセプトに、料理以外の配達も手がけるようになりました。従来のいわゆるフードデリバリーの枠を超えて、例えば花屋からの配達にも対応します。商品ジャンルを増やす中、食料品や日用品を数多く扱うスーパーやドラッグストアとの連携は、ユーザーのニーズにきめ細かく対応できるポテンシャルが非常に大きいと感じています」(同)

 他社は22年以降、ドラッグストアとの連携を強化しており、配達とドラッグストアの組み合わせは効果が大きかったとみられる。特にWoltが注力する中小都市では飲食店数や注文数が大都市より少ないため、その空隙を埋める効果もありそうだ。

 Woltが北海道など北方に注力し、中小規模の都市でサービスを強化していることが分かった。他社もエリアを拡大しているが、マイナーなエリアにおける店舗の選択肢はWoltが豊富で、地道な開拓が支持につながったと考えられる。

 他の業界にも共通するが、既に高シェアが握られている市場において、後発の企業がシェアを増大するのは至難の業だ。「地域」または「客層」を限定し、特定の区分に限定するニッチ戦略を取るしかない。コンビニ業界のセイコーマートのように北海道の覇者となるのか、Woltの今後に注目したい。

(文=山口伸/ライター)