黄色い胞子を放つこのカビは、いまや“ファラオの呪いの正体”として認識されるようになりました。

長らく「呪われた微生物」として恐れられてきた存在が、まさか治療薬の希望に変わるとは、誰が想像したでしょうか。

毒から薬へ:カビから生まれたがん治療薬

そんな“死のカビ”が、一転してがんを倒す武器として脚光を浴びることになりました。

ペンシルベニア大学の研究チームは今回、このアスペルギルス・フラバスから取り出した化学物質に注目。

彼らはその中から「リップス(RiPPs)」と呼ばれる特殊なペプチド分子を発見します。

これは細胞内の“タンパク質工場”であるリボソームによって作られ、あとから化学的に手を加えることで性質を変えることができる不思議な物質です。

チームは、このペプチドを人工的に改変し、白血病のがん細胞に対してどのような働きをするのかを実験しました。

その結果、驚くべきことに、4種類の新しい分子のうち2つが強い抗がん作用を示したのです。

これらの分子は「アスペリジマイシン(asperigimycins)」と名付けられました。

これは発見元であるAspergillusと薬効を示す「マイシン」を組み合わせた名前です。

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研究中の様子/ Credit: UPenn – Penn Engineers Turn Toxic Fungus into Anti-Cancer Drug(2025)

さらにチームは、アスペリジマイシンに「脂質(あぶらの分子)」を結合させた変異体をつくり、薬の働きをより高めることに成功。

するとこの新しい化合物は、現在白血病の標準治療薬として使われている「シタラビン」や「ダウノルビシン」と同じレベルの効果を示したのです。

研究者たちはさらに、なぜ脂質を加えると薬の効果が高まるのかを遺伝子レベルで分析しました。

その結果、がん細胞の中にある「SLC46A3」という遺伝子が、薬の細胞内への取り込みに関わっていることがわかりました。