戦争嫌いで知られているトランプ氏にとって米軍の参戦は可能な限り避けたいはずだ。理由はある。イラン攻撃に参戦した場合、中東に駐在する約25000人の米軍兵士と基地がイラン側の攻撃の対象となる危険性が高まるからだ。

それだけではない。トランプ氏は「米国を再び偉大な国にする」(MAGA)を表明し、米国ファーストを掲げ、海外の戦争・紛争には極力関与しないことを公約してきた。それが今、イランの核計画を破壊するという名目があったとしても戦争に参戦することはその公約に反する。実際、米国内でトランプ氏を選挙で支持してきた国民がトランプ氏のイラン戦の参戦に反対の声を上げている。選挙公約の順守を重視するトランプ氏は悩まざるを得なくなるわけだ。

また、バンカーバスターによってイランの地下施設が破壊された場合、放射性物質が外部に放出する危険性、地域の地下水汚染といった影響が出てくるかもしれない。放射性物質の放出による被害が出た場合、国際社会から米国批判の声が出てくるのは必至だ。ウィ―ンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)によると、イスラエルの核関連施設への空爆で施設内での放射能汚染は出ているが、外部に放射能漏れの報告は目下、ないという。

そのほか、米軍が参戦する前にイランに駐在する外国人の避難問題がある。例えば、ドイツの場合、イスラエルに約4000人、イランに1000人のドイツ人がいる。彼らの避難はまだ完了していないことも、トランプ氏がイラン攻撃へゴー・サインを躊躇する理由の一つとなっている。

20日にはジュネーブで英仏独の3国外相と欧州連合(EU)のカラス外務・安全保障政策上級代表がイランのアラグチ外相と会合する。イラン側がどのような提案を出すかは不明だが、イラン側が核の放棄を表明したとしても欧米側はそのイラン側の提案を信頼できず、イラン側の時間稼ぎと受け取る可能性が濃厚だ。ただし、交渉が始まり、次回の協議日程が発表されるならば、トランプ氏は同盟国の外交努力を完全には無視できない、といった事情が出てくるかもしれない。