研究チームは、人工原子や共振器の周波数を掃引しながらエネルギー準位(スペクトル)を測定することで、この現象のサインを探しました。

その結果、ある条件下で「gg1」という状態と「ee0」という状態がエネルギーを交換して振動していることを示すスペクトルの変化を捉えたのです。

ここでgg1とは「両方の原子が基底状態(g)で、光子が1個ある状態」、ee0とは「両方の原子が励起状態(e)で、光子が0個の状態」を意味します。

通常であれば、この二つの状態は直接行き来できないためエネルギー図上では交差してしまいます。

しかし実験では交差が避けられエネルギー準位が避けて裂ける(反交差する)現象が見られました。

これはgg1とee0が強く結合し混ざり合っている証拠です。

言い換えれば、「1個の光子が消えて2個の原子が同時に励起する」過程と、その逆の「2原子が同時にエネルギーを落として1個の光子を放出する」過程が、実際に起きていることを意味します。

この反交差の観測によって、1光子で2原子を励起できるという量子力学の予言が実証されたのです。

量子光学の“道具箱”に新ツール、何が変わる?

たった1粒の光が原子2つを同時に叩いた瞬間
たった1粒の光が原子2つを同時に叩いた瞬間 / 装置を電気回路の視点で分かりやすく描いた回路図です。この図では、人工原子が「ジョセフソン接合」と呼ばれる量子力学的に振る舞う特殊な接合素子を含んでいることが示されています。また中央の共振器部分は、インダクター(コイル)とキャパシター(コンデンサー)からなる典型的な「LC回路」として描かれており、ここでマイクロ波(光子)が蓄えられ、原子と強く相互作用します。つまり、図のジョセフソン接合は人工原子の心臓部に相当し、LC回路はその原子たちとやりとりする光子の「遊び場」として機能しているのです。図において、「α₁」「β₁」「a₁」「b₁」および「α₂」「β₂」「a₂」「b₂」など、ギリシャ文字やアルファベットでラベル付けされた×印(×マーク)が、ジョセフソン接合を示しています。ジョセフソン接合こそが、量子回路を「量子」たらしめる、いわば量子現象が現実世界に顔をのぞかせる『量子のゲートウェイ』にあたる部分なのです。/Credit:Spectral properties of two superconducting artificial atoms coupled to a resonator in the ultrastrong coupling regime