研究チームは今回、感音性難聴のある40人を対象に、1日1時間の音楽視聴を35日間続けてもらう実験を行いました。

使用されたのは、2kHz~8kHz以上の高音域を明瞭に再生する「高明瞭化音響デバイス」です。

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高明瞭化音響デバイス/ Credit: 広島大学(2025)

このデバイスから流れる音楽には、歪みが少なく、聴覚中枢への刺激に適した「明瞭聴取音(IH音:高音域を強調し歪みを抑えた高精細音)」が使われました。

被験者は大きく「音楽療法を受ける実験群」と「音楽療法を受けない対照群」に分けられています。

そして35日間の音楽視聴後、「騒音下語音聴取テスト」を実施したところ、音楽療法を受けた実験群では、騒音下でも言葉の聞き取り能力が有意に向上していることがわかりました。

特に注目すべきは「もともと会話の聞き取りが苦手だった人ほど、改善の幅が大きかった」という点です。

つまり、聴覚のハンディが大きい人ほど、この音響療法の恩恵を受けやすいことが示されています。

さらに脳活動の測定では、聴覚中枢における神経活動が活性化していることが明らかになりました。

具体的には、脳の音処理の初期反応を示す指標が増大していたり、注意機能や音声識別に関わる脳の反応が強化していたのです。

これらのデータは、音楽視聴が単なるリラックス効果以上に、脳の聴覚処理機能そのものを改善している可能性を示しています。

またこの効果は年齢に関係なく広く見られたことから、若年者から高齢者まで幅広い層に有効であると考えられています。

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Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

今回の研究は、補聴器を使わなくても、日常生活の中で自然に行える「聴覚リハビリテーション」の新たな可能性を示しました。

今後の研究では、次のような点が検証されていく予定です。

・最適な音楽の種類や聴取時間の設定

・補聴器との併用による相乗効果