●この記事のポイント ・米マイクロソフトの新AIエージェント「Researcher」「Analyst」の提供が開始された ・役割特化型ゆえに必要な作業に対する的確さや回答の深度で優位性を発揮する ・他社AIに比べて企業利用のハードルが低く、導入後すぐに実業務に組み込みやすいという優位性
米マイクロソフトの新AIエージェント「Researcher」「Analyst」の提供が開始された。米OpenAIの「deep research」と「Microsoft 365 Copilot」の機能を組み合わせたResearcherは、調査業務に特化しており、「Salesforce」などと連係して外部データを取り込める。米OpenAIの「o3-mini」をベースに開発されたAnalystはデータ分析に特化している。“AIエージェントバブル”と呼ばれるほど次々と新たなAIエージェントがリリースされるなか、マイクロソフトの新AIエージェントはどのような特徴や強みを持つのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
- 企業データとのシームレスな統合、高度な推論能力と専門特化
- マーケティングリサーチ・市場分析、経営戦略・事業企画
- 留意すべきポイント
- より高度な自律性とプロアクティブな提案、専門領域の拡張とチームAIの登場
- 山本大平氏の経歴とAIについての実績
企業データとのシームレスな統合、高度な推論能力と専門特化
まず、他社のAIエージェントと比較して、どのような独自性や優位性があるのか。F6 Design 株式会社 代表取締役で戦略コンサルタント兼データサイエンティストの山本大平氏は次のように説明する。
「他社の類似 AI、例えば Google の Gemini、OpenAI の GPT 系モデル(ChatGPT)、Anthropic の Claude などと比べて、いくつか独自の強みがあると感じています。データサイエンティストの視点から主なポイントを挙げますね。
・企業データとのシームレスな統合
最大の特徴は、Microsoft 365環境に深く組み込まれており、ユーザーの社内データと外部のウェブ情報を統合して活用できる点だと思います。たとえばResearcherは社内のメールや会議メモ、ファイル、チャットなどから文脈を抽出しつつ、ウェブ上の公開情報や競合他社のデータも収集・選別して、分かりやすいレポートを自動生成してくれます。社内データだけでなくSalesforceやServiceNow、Confluenceといった外部サービスの情報源とも連携できるため、社内外の情報を横断した包括的な調査が可能になるんです。
従来のChatGPTなど単体の汎用AIでは、こうした企業内システムとの連携は標準では備わっておらず、追加のカスタマイズが必要でした。その点、ResearcherとAnalystはMicrosoft Graph経由で企業内のあらゆるデータソースにアクセスでき、業務に即したパーソナライズされたサポートを提供してくれる、ここは大きな強みと感じています。
・高度な推論能力と専門特化
これらのエージェントはOpenAIの先進モデルをベースにしつつ、それぞれ調査特化(Researcher)と分析特化(Analyst)という役割にチューニングされているようです。特にAnalystは、OpenAIの先進的な高性能モデルをベースに連鎖的な思考推論(Chain-of-Thought)により問題を段階的に解析していくのが特徴だと聞いています。
熟練のデータサイエンティストのように考え、必要に応じてPythonコードを自動で実行しながら複雑なデータクエリにも対応できるんですね。例えば散在する複数のスプレッドシートから売上データを集計し、新製品の需要予測や顧客購買パターンの可視化、収益予測までを数分で行ってくれるとのことです。これはまさに社内に自動データアナリストがいるようなもので、他社の汎用AIにはない強みと言えるんじゃないでしょうか。
確かにOpenAIのChatGPTも高度なデータ分析モード(Code Interpreter改め『Advanced Data Analysis』機能)でコード実行は可能になっていますが、AnalystはMicrosoft 365上で直接それを実現し、処理過程のコードをリアルタイムで可視化してユーザーが検証・学習できる点で優れていると思います。一方、Researcherも強力なモデルにMicrosoft独自のオーケストレーションを組み合わせており、ウェブ上の膨大な情報を取捨選択して出典付きのレポートをまとめる能力に長けています。GoogleのGeminiやOpenAIのGPT-4なども非常に高い汎用推論能力を持ちますが、Microsoftのエージェントは役割特化型ゆえに必要な作業に対する的確さや回答の深度で優位性を発揮する、ここは期待できるポイントだと感じています。
・エンタープライズ向けの安心感
Microsoftが提供するという点も大きな差別化要素ですよね。企業向け製品としてセキュリティやプライバシーへの配慮がなされており、各社のテナント内で完結して動作するため機密データも安心して扱えるそうです(Microsoft 365 Copilotの一部として提供)。また、利用にあたっての管理機能や監査機能も整備されているようで、企業規模での展開に適していると感じます。これに対し、GoogleのGeminiはマルチモーダル(テキスト・画像・音声・動画をネイティブに扱える)かつ最大100万トークン(今後200万に拡大予定)の長大なコンテキストウィンドウを持つ先進的なモデルで、ある意味では技術的に非常に強力ですが、現時点では主にGoogle Bardなどの形で提供されており、企業内システムとの直接統合という点ではMicrosoftに一日の長があるのではないでしょうか。
AnthropicのClaudeも最大10万トークンもの文脈保持が可能で、大量の文書を一度に解析する用途に優れています。しかしClaudeやChatGPTを企業で使う場合、機密情報を外部クラウドに出すリスク管理や、社内データとの接続には追加の工夫が必要です。その点、ResearcherとAnalystはMicrosoftのビジネスプラットフォーム上で動作する内製エージェントという位置付けで、他社AIに比べて企業利用のハードルが低く、導入後すぐに実業務に組み込みやすいという優位性があるように感じます」