今回の研究のもう一つの注目点は、心理的な改善効果です。

水中運動を行った参加者たちは、ただ筋力が上がっただけではありません。

アンケート調査の結果、睡眠障害のほか、痛みが起きることへの不安感、恐怖心が、標準治療グループよりも大きく改善していたのです。

またMRIで計測された多裂筋の容積増加は、生活の質(QOL)や不安・うつ症状の軽減、睡眠の質の向上と有意な相関を示しました。

さらに筋肉の質的な指標である「脂肪浸潤率」の変化も、睡眠の改善と関係していたことが確認されました。

なぜ筋肉の変化が、心の状態に影響を与えるのでしょうか?

ひとつの仮説として、「自己効力感」の変化が挙げられます。

痛みのある体でも“自分で動けた”という実感が、自信や前向きな感情を生み、心理状態を改善するというメカニズムです。

とくに水中では転倒の不安が少なく、動作時の痛みも緩和されるため、「できた!」という感覚が得られやすいのです。

また筋肉と脳は神経系で密接につながっているため、筋肉の活性化が脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミン)にも影響を与える可能性があります。

この「身体→脳→心」という流れが、今回の心理的な改善の背景にあるのかもしれません。

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Credit: canva

慢性腰痛というのは、単なる筋肉や骨の問題ではなく、心と身体の連動した問題です。

その両方にアプローチできるのが、今回の研究で示された「水中運動」でした。

浮力による安心感と、無理のない運動強度。そして、動くことで得られる実感と自信。

水の中で動くことが、思った以上に人間の心身に良い影響を与える、それはまるで“水が持つ癒しの力”を科学が裏付けた瞬間のようでもあります。

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参考文献

Aquatic therapy can heal muscles and minds of people with chronic low back pain, study suggests
https://medicalxpress.com/news/2025-06-aquatic-therapy-muscles-minds-people.html