この“新種の岩石”を構成していたのは、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガンといった化学的に活性な元素でした。
これらが海水や空気と反応することで、方解石や針鉄鉱(しんてっこう)などの天然セメント物質を生成していたことが判明しています。
これらは自然界でも堆積岩の形成に関与する鉱物ですが、通常は何千年もの時間を要します。
ところがこのスラグでは、同じ現象がわずか数十年間で完了していたのです。
研究チームはこの現象を「地球が新たに獲得した“人工岩石のサイクル”」と位置づけました。
しかもこれは特殊な例ではなく、世界中の鉄鋼スラグ堆積地で同様の現象が起きている可能性が高いとされています。
人工廃棄物が「未来の地層」になる?
この研究を主導したのは、グラスゴー大学の地質学者アマンダ・オーウェン博士です。
彼女は「このプロセスは、地質記録としての“未来の岩石”が、かつてないスピードで地球に刻まれていることを示している」と述べています。
チームはさらに、電子顕微鏡、X線回折などを用いた高精度分析により、これらの“人為岩石”が自然の岩石と非常によく似た構造を持ち、すでに海岸の形状や生態系に影響を及ぼし始めていることを確認しました。
たとえば、もともと砂浜だった場所が、岩のプラットフォームへと急速に変化しており、それによって海岸の侵食の仕方や潮の流れ、さらには沿岸の生態系までが変わってしまう可能性があるのです。

恐ろしいのは、こうした急速な岩石化は都市計画や環境対策の想定をはるかに上回るスピードで進行しているという点です。
現在の多くの土地管理や海岸線モデルでは、これらの人工岩石の形成が考慮されておらず、気候変動対策にも新たな課題を突きつけています。