さらに、スペインの主要企業35社のうち、政府が株式を保有する企業のトップにも、サンチェス氏の側近を就任させようとしている。最近では、電話公社に彼の影響力が及ぶ人物が任命された。

また、報道機関に対して政府から補助金が支給されており、その見返りとして政権寄りの報道を行うメディアも出てきた。中でも国営ラジオ・テレビ放送局に加え、民放2社や全国放送のラジオSERなどが、政府の影響下にあるとされている。

このように、サンチェス氏は独裁的な体制の構築を着々と進めている。

動けない国王と野党の無力

一方、国王は憲法に定められた範囲を越える行動はできず、政治への関与は認められていない。この制約を、サンチェス氏は巧みに利用している。

では、野党は何をしているのか。現在の野党第一党・国民党のフェイホー党首は有能な官僚出身の政治家だが、大胆な行動に欠ける。内閣不信任案の提出も、「議席数で負ける」として躊躇している。

だが、不信任案は提出してこそ意味がある。たとえ否決されても、サンチェス政権に不満を抱く有権者の支持を引き寄せる契機になるはずだ。ところが、フェイホー氏は保守的でリスクを取れない政治家なのである。

次回の総選挙は2027年に予定されている。サンチェス首相自身も、その時には敗北する可能性が高いと見ている。だからこそ、それまでの間に、自らの権力基盤を固める独裁化の道を突き進んでいるのである。