作品中に公開されるラッシュ氏の問題発言には驚くものもあるが、事件自体はこれまでメディアによって広く報道されてきたため、熱心に追ってきた視聴者にとっては目新しい事実が少ないと感じるかもしれない。インタビューに応じた元従業員や専門家の多くは、2023年9月に行われた政府の公聴会ですでに証言しており、その内容もすでに広く知られている。妻やオーシャンゲートの出資者、取締役など利害関係者の言い分も聞きたいところだが、遺族が民事訴訟を起こしている現状や、調査委員会の結論次第で刑事事件化もあり得るため、出演は難しいだろう。
ラッシュ氏を最大の悪役とする構成は妥当だが、作品後半でやや失速感を覚えるのは、彼一人の問題にとどまらない、より大きな構造的問題がほのめかされるからかもしれない。資金力のない者を守れない内部告発者制度と監督当局の機能不全(労働安全衛生庁の調査官は、解雇された元技術部門の責任者が提出した内部告発内容を有力と認めながら、調査案件が多すぎて後に中断せざるをえなかったと話す)、無批判な大手メディア(CBSのベテラン記者が「注目を集めたがる男が記者を危険に晒すはずがない」と発言)など。有力者の搾取を許す社会構造の欠陥について、作品は示唆するに止まっている。タイタン事故に人々がとりわけ強い関心を寄せた背景には、単に金持ちの転落をほくそ笑む感情だけでなく、特権階級への根深い不信や、社会的格差への苛立ちがあったのではなかったか。
そうした視点をさらに掘り下げていれば、作品にもっと深みが出たようにも思う。それでも本作は、イノベーションの名を借りた商業主義が安全性を犠牲にする危険性、俺しかできないと豪語するカリスマを盲目的に信じる危うさといった、現代的かつ教訓的なテーマを描いた作品として、十分に見応えがある。