【ワシントン時事】日本製鉄は14日、米鉄鋼大手USスチールの買収計画を巡り、トランプ米大統領が日鉄に対し、米政府と国家安全保障協定の締結を条件に両社の「歴史的パートナーシップ(提携)」を承認したと発表した。日鉄はUSスチールの普通株100%を取得し、完全買収する。米政権の反対で難航が続いてきた買収計画が成立に向かう見通しとなった。

 買収計画ではバイデン前大統領が今年1月、原則30日以内に「完全かつ永久に放棄するために必要な全ての措置」を講じるよう命令。買収計画の停止が確定する期限が18日に迫る中、トランプ氏は13日(日本時間14日)、この文言の削除を命じた大統領令に署名した。

 国家安保協定には、米政府が懸案としてきた安保上のリスクを払拭するため、経営の重要事項に拒否権を与える「黄金株」を米政府に発行することを明記。2028年までに約110億ドル(約1兆6000億円)の新規投資を行うことも盛り込んだ。 

 黄金株は取締役の選任や解任、合併などに拒否権を与える特殊な株式。買収後も米政府がUSスチールに影響力を持つことができる。トランプ氏はUSスチールについて「米国が支配する」と繰り返し訴えてきたため、日鉄が配慮した。

 買収が実現すれば、粗鋼生産量で計約5800万トン(24年)、世界4位の巨大鉄鋼会社が誕生する。両社は声明で「今後何世代にもわたって、地域と家族を支える大規模な投資をもたらす」と強調した。

 買収計画を巡っては、トランプ氏が安保上の懸念から対米外国投資委員会(CFIUS)に再審査を命令。審査結果を踏まえ、両社が米政府と国家安保協定を結べば「安保上の脅威は十分軽減され得る」と、前向きな判断を示した。

 日鉄は23年12月、USスチールを約140億ドル(約2兆円)で買収すると発表。USスチールでは24年4月に臨時株主総会で承認された。しかし、大統領選を前に有権者の支持を取り付けたい民主、共和両党や労働組合が計画に反対するなど政治に翻弄(ほんろう)された。日鉄は投資額の積み上げや、米政府高官らの説得を続け、買収に理解を求めてきた。

◇日鉄のUSスチール買収を巡る経緯
2023年12月    日本製鉄、USスチールの買収発表
            全米鉄鋼労組(USW)が反対表明
            米政府高官、対米外国投資委員会(CFIUS)での審査表明
  24年 1月    トランプ前大統領(当時)、買収を「即座に阻止」
      3月    バイデン大統領(当時)、USスチールは「国内で所有・運営」
            USW、大統領選でのバイデン氏支持表明
            日鉄、14億ドル追加投資発表
      4月    USスチール臨時株主総会で日鉄による買収承認
      7月    バイデン氏、大統領選から撤退
      8月    ハリス副大統領(当時)、大統領選の民主党候補に
            日鉄、13億ドルの追加投資計画公表
      9月    ハリス氏も買収反対表明
            CFIUS、審査期限を3カ月延長
     11月    大統領選でトランプ氏勝利
     12月    トランプ氏、買収計画の「阻止」明言
            CFIUS、審査結果まとまらず
2025年 1月 3日 バイデン氏、買収計画に中止命令
         6日 日鉄側がバイデン氏らを米裁判所に提訴
        20日 トランプ氏が大統領就任
      2月 7日 日米首脳会談後、トランプ氏が日鉄による投資の歓迎表明
         9日 トランプ氏、日鉄による完全買収を認めない考えを改めて言明
      4月 7日 トランプ氏、CFIUSに再審査命じる
      5月19日 日鉄、買収承認なら140億ドル投資の意向と報道
        21日 CFIUS、トランプ氏に勧告書提出
        23日 トランプ氏、日鉄による投資承認の意向表明
        30日 トランプ氏、演説で日鉄の投資を改めて歓迎
      6月13日 トランプ氏、日鉄とUSスチールの「パートナーシップ」承認
(了)
(記事提供元=時事通信社)
(2025/06/14-16:24)