■100万人に1人の「非定型後天性サヴァン症候群」
メンタルの悪化に悩む事故後のメレ氏であったが、“転機”が訪れるのはそう遠くはなかった。
ある日、子どもたちを連れてホームセンターに行ったメレ氏だったが、偶然に絵画用品売り場に差しかかった時、自分でもまったく意外なことにそこで足が止まったのだ。油絵の道具を見た時、驚くべきことに絵を描きたい衝動が湧いてきて、勢いそのままに絵筆や絵の具などの道具を一式購入したのである。ちなみにそれまでのメレ氏には絵心はまったくなく、絵筆を持ったことすらなかった。
「事故の前の私は絵など描けたものではありませんでした。しかし事故後4カ月ぶりに、私は自分と関係のあるものを見たのです。それ(絵の道具)は私に属するものであると感じました」(メレ氏)
その後は一心不乱に絵を描き続ける日々を送ることになる。自分でも不思議なくらい絵筆は自由闊達にキャンバスの上を駆け巡り、次々と作品を仕上げていったのだ。メレ氏の作品はいずれも素晴らしい出来栄えで、芸術的価値のあるものだとされている。

突然芽生えた絵の才能をいかんなく発揮するメレ氏は、専門家から「非定型後天性サヴァン症候群(atypical acquired savant syndrome)」であるとされた。100万人に1人の症例であるという後天性のサヴァン症候群とは、自閉症または頭部損傷状態の人がある日突然、アートや音楽、数学といった分野で才能を開花させるきわめてレアな現象である。男性が多く、わかっているだけで2020年時点で世界中で33人が非定型後天性サヴァン症候群と診断されている。
非定型後天性サヴァン症候群がどのように発症するのかまだよくわかってはいないのだが、専門家によればめったに現れない症状ではあるものの、すべての人間に備わっている潜在能力であることを示唆している。

「私は今42歳ですが、38歳で再出発しました」とメイ氏は語る。今ではセールスマンの仕事を完全に辞め、創作活動に専念しているということだ。事故をきっかけに驚異的な才能が開花し、それまでとはまったく異なる“第二の人生”に踏み出したメイ氏が、今後どのような活躍を見せてくれるのか注目したい。
参考:「Daily Mail」、「WECT」、ほか
※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。
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