日本の宅配アプリ市場でスーパーアプリ化が進まない理由

 前述のとおりタイの宅配アプリ市場ではスーパーアプリ化が競争の動向を左右する大きな要因となっているが、Uber Eats、出前館、menu、Woltなどが上位を占める日本の同市場では、スーパーアプリ化の動きは目立っていない。

「日本における宅配アプリ市場では、出前館やmenuなどのアプリが主要なプレイヤーですが、いずれもコア機能に特化しており、スーパーアプリ化は進んでいません。アジア諸国と比較しても、生活インフラがすでに充実しているため、新たな多機能アプリへのニーズが相対的に低いと考えられます。また、日本では用途ごとにアプリを使い分ける文化が根強く、『〇〇するならこのアプリ』といった専用性を重視する傾向が見られます。これは、利便性よりも操作性やUIの明快さ、UXを優先するユーザー傾向に基づくものです。このような文化的背景には、日本独自の携帯電話文化、とりわけiモードに代表される機能分離型のサービス設計が影響していると考えられます。当時の公式メニューには、天気予報、着信メロディ、占い、乗換案内などが独立したサービスとして横並びに存在し、機能を個別に呼び出す習慣が定着していました。

 加えて、日本ではフードデリバリーの利用率が他のアジア諸国と比較して決して高くはなく、スーパーアプリ化によるスケールメリットが見込みづらいという構造的な課題もあります。このため、同市場においてスーパーアプリ化がシェア争いにおける決定的な要素となる可能性は限定的であると考えられます。とはいえ、ポイントやクーポン配信など、ユーザーのロイヤリティを高める機能がスーパーアプリ内で横断的に提供されれば、一定の競争優位を形成する要素となる可能性は残されています」(プライムセオリー)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=プライムセオリー)