冷戦時代のニカラグアで実践された「シナリオ」
この恐るべきマニュアルが最初に想定していた舞台は、1980年代の中米ニカラグアだった。当時、米国はニカラグアのサンディニスタ政権をソ連・キューバ寄りの共産主義政権と見なし、その転覆を画策していた。CIAが支援する反政府ゲリラ「コントラ」に、この「心理作戦」の手法を教え込み、国内を混乱させようとしたのだ。
しかし、この計画は最終的に失敗に終わる。CIAの思惑通りに大規模な暴動は起きず、コントラ反乱軍も決定的な勝利を収めることはできなかった。サンディニスタ政権は、その後1990年の選挙によって平和的に政権の座を明け渡している。
計画は失敗したとはいえ、この文書はCIAが世界各地で反政府運動を扇動するための「手引書」として、その後の活動に影響を与え続けた可能性が指摘されている。
現代に蘇る陰謀論? SNSで拡散する「プロ市民」疑惑
40年も秘密にされてきたこの文書が、なぜ今、再び注目を集めているのか。それは現代の抗議活動との関連を疑う声がSNS上で広がっているからだ。
最近、米ロサンゼルスで起きた反トランプ政権デモを巡り、「参加すれば高額な報酬が支払われる」といった内容の広告がネット上に出回ったことが、この疑惑に火をつけた。一部の人々は、このCIAの古いマニュアルが現代の米国内でも使われているのではないかと主張している。
もちろん、CIAが現在の米国内の抗議活動に直接関与しているという直接的な証拠は一切ない。しかし、かつてCIAがソ連の評判を落とすためにイタリアで偽旗作戦(敵の仕業に見せかける作戦)を行い、多数の民間人を犠牲にした「グラディオ作戦」のような前科があることも事実だ。
この文書の存在は、私たちが目にする「民衆の怒り」が、必ずしも純粋なものではない可能性を突きつけている。何が真実で、何が仕組まれたものなのか。情報が錯綜する現代において、その見極めはますます困難になっているのかもしれない。
参考:Daily Mail Online、ほか
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