しかし、国内問題に対して「遺憾」を使う場合、この外交的ニュアンスが曖昧さを生む原因となっています。「こうした事態を引き起こしたことは極めて遺憾である」という表現は、責任の所在や今後の対応を明確にしないまま、形式的な謝罪や反省の意を示すだけに終わることが多いのです。
政治的言語の特殊性
政治家の発言には、以下のような特徴があります。
多義性の活用:一つの言葉で複数の解釈を可能にし、立場の異なる人々に配慮する。 責任の分散:個人的責任を組織的責任に転換する表現を用いる。 時間稼ぎ:具体的な対応を先送りしながら、何らかの対応をしているように見せる。
例えば、「関係各所と検討し見直して参りたい」「前向きに検討する」「真摯に受け止める」といった表現は、実質的には何も約束していないにもかかわらず、何かしらの行動を示唆しているように聞こえます。
政治的コミュニケーションを改善するためには、以下の点が重要です。
文脈の明確化:「遺憾」を使う際は、具体的に何に対して遺憾なのか、今後どうするのかを併せて説明する。 期限の設定:「検討する」場合は、いつまでに結論を出すかを明示する。 責任の明確化:問題が生じた場合、誰がどのような責任を取るのかを明確にする。 平易な言葉の使用:専門用語や曖昧な表現を避け、具体的で分かりやすい言葉を選ぶ。
政治家の言葉は、民主主義における信頼の基盤です。形式的な表現に頼るのではなく、真摯で具体的なコミュニケーションを心がけることが、政治への信頼回復につながるでしょう。同時に、有権者側も政治的言語の特性を理解し、批判的に読み解く力を養うことが重要です。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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