つまり「リスクを高める」アプローチでは、密猟者の行動を止めるには不十分だったのです。
サイの角を切除する実験の効果
そこで試されたのが、あらかじめサイの角を切ってしまうという方法です。
サイの角は爪や髪と同様に再生するため、根元を残して安全に切除することができます。
南アフリカでは、2017年からの7年間で2,284頭のサイに角切除が行われました。
この切除処置には、専門の獣医とチームが関わり、鎮静剤を用いて安全に実施されます。
角は成長板の上で切るため、サイに痛みはありません。
その結果は劇的でした。
研究によれば、角を切除した保護区では密猟が平均78%も減少。角がないサイは「殺しても利益にならない」と判断されたため、密猟者の侵入自体も減ったのです。
また費用対効果も非常に高く、角切除は保護予算全体の1.2%で最大の成果をあげた対策となりました。

それでもサイは狙われる
ただし、これでも完璧な防護策とはなりませんでした。
再び伸び始めた角の「根元部分(スタンプ)」を狙って、切除済みのサイが111頭も密猟されたことが確認されたのです。
その多くはクルーガー国立公園に集中しており、角切除の頻度や範囲が十分でなかったことが原因と見られます。
また角を切除して密猟が減った地域では、別の地域に密猟圧が移動する「押し出し効果」も確認されました。
そしてもう一つの課題は、角切除がサイの生態や繁殖行動に与える長期的影響がまだ不明であることです。
現時点では大きな悪影響はないとされていますが、今後の研究が求められています。
この研究は、サイを守るために、人間がいかに極端な手段を取らざるを得なくなっているかを物語っています。