言語的「指紋」から解き明かす古代文書の謎

 AIは、単語の使用法、単語の頻度、フレーズ、文の構造といったパターンを分析した。これらは異なる著者や書記の流派を反映する可能性のある、微細な言語的な「指紋」と言える。

 研究チームは、このAIの手法を、著者について議論のある他の9つの聖書の箇所にも応用した。これには、天地創造の物語、ノアの洪水、そして契約の箱に関する記述など、よく知られた物語が含まれる。聖書によれば、契約の箱は紀元前13世紀頃、イスラエル人がエジプトを脱出した直後に作られ、モーセがその中に十戒を納めたとされている。AIアルゴリズムは、これらの章の単語使用を既知の3つの文体と比較することで新たな関連性を明らかにし、長年の学術的議論の明確化に貢献した。

 研究者たちは、この新しい技術が古代文書の研究に革命をもたらし、聖書以外の、例えば死海文書や著者が不明な歴史的文書など、他の著作者不明の謎の解決にも役立つ可能性があると述べている。

【聖書ミステリー】AIが解読!?旧約聖書に潜む“3人の異なる特徴” ― 契約の箱、天地創造… 作者は誰だ?の画像2
(画像=画像は「Wikipedia」より)

3つの文体の特徴とは?

 最初に3つの文体が見つかったのは、聖書学者が旧約聖書の一部で語彙、テーマ、書き方が異なることに気づいたことがきっかけだった。

 第一の文体は「申命記的(D)コーパス」として知られ、法律、服従、明確な命令に焦点を当てている。レーマー氏によれば、「申命記とは、トーラー/モーセ五書の最後の書を指します。この巻物の最初のバージョンが紀元前7世紀に書かれたという点では、幅広いコンセンサスがあります。この最初のバージョンの核となったのは、イスラエルの神が犠牲の儀式のためにただ一つの場所(エルサレム)を選んだと規定する法律でした」とのことだ。

 第二の文体は「申命記史(DtrH)」と呼ばれ、イスラエルの歴史を物語り、忠実さに基づく道徳的教訓を強調している。これもまた、何度か改訂されたとレーマー氏は説明する。

 そして第三の「祭司的(P)文体」は、儀式、祭司職、聖なる空間を強調し、形式的で詳細な言語を用いている。創世記、出エジプト記、レビ記のいくつかのテキストが含まれ、「これらのテキストは、第二神殿の再建という文脈の中で、紀元前520年頃に初めて書かれました。祭司的な著者や編集者たちは、儀式や様々な種類の犠牲の重要性を示したがっています」とレーマー氏は述べている。

 AIという新たな視点を得た聖書研究は、契約の箱の物語を含む古代の記述の成立過程について、今後さらに多くの発見をもたらすかもしれない。

 AIが解き明かす聖書の謎、その探求はまだ始まったばかりだ。

参考:Daily Mail Online、ほか

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