しかし、デ・ララ博士はこの常識に挑みました。

まず神殿全体の3Dモデルを構築し、地形、建材、建築構造、天体の位置など、あらゆる要素を反映した仮想空間を再現。

そして、物理ベースの照明シミュレーションを行うことで、1年を通じて神殿内にどのような自然光が入り、どのように像が照らされたのかを分析しました。

使用された3D技術は、実世界の光の挙動を再現するアルゴリズムであり、太陽の高度や角度、光の反射率などをリアルに再現することで、建築空間内の明暗を測定しました。

これは単なる建築史ではなく、天文学、物理学、そしてデジタル技術の融合による、まさに21世紀的な古代研究だと言えます。

そしてこの研究により、これまでの常識を打ち破る事実が明らかになりました。

意図的に設計された暗闇と「一時的に輝く“降臨”の瞬間」

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3D技術による再現で、パルテノン神殿は薄暗かったと判明 / Credit:THE PARTHENON 3D

3Dぎ技術によって明らかになったのは、これまでの想像とはまったく逆の風景でした。

パルテノン神殿の内部は、通常の昼間であってもかなり暗く、東向きの入口から入る光が内部を明るく照らすこともありませんでした。

それでも、限られた特定の朝、特にパナテナイア祭の開催時期において、太陽がちょうど神殿の東門と像を一直線に結ぶ位置に来る瞬間が存在します。

そのわずかな時間、アテナ像の下半身が太陽の光に照らされます。

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特定のタイミングでアテナ像の下半身が明るく照らされた / Credit:THE PARTHENON 3D

金の装飾が光に包まれ、まるで女神が降臨したかのように神々しく輝くのです。

これは偶然ではなく、明らかに意図された設計でした。

建築そのものが宗教体験を演出する舞台装置として機能していたのです。

パルテノン神殿には、他にも工夫が見られます。

例えば、屋根に配置された半透明性のある大理石による瓦や、天井の小さな開口部から差し込む光、さらには像の前に設けられた反射池が、わずかな光を拡散させる補助装置となっていた可能性があります。

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意図的に設計された薄暗さといくつかの仕掛けによって、「女神の降臨」が生み出されていた / Credit:THE PARTHENON 3D