普通、ブラックホールは銀河の中心で成長すると考えられているため、銀河が密集する場所にクエーサーが集まっているのが自然です。

そのため、今回のクエーサー集団はブラックホールと銀河の関係についての従来の理解を大きく覆すものであり、「なぜブラックホールが銀河の外れに集中しているのか?」という新たな謎を突きつける結果となりました。

2種の異なるガス領域の「境界」に位置していた

チームはさらに、クエーサー集団とその周囲の環境との関係を調べるため、銀河間ガスの三次元的な分布を描き出しました。

結果は驚くべきものでした。

クエーサー集団は、ガスが最も密集している場所にも、最も希薄な場所にも存在していなかったのです。

それらが位置していたのは、銀河間に広がる「中性ガス」と「電離ガス」のちょうど境目だったのです。

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黄色のX印:クエーサーの位置、黒の等高線:銀河の密度。背景の色は中性水素ガスの密度を表しており、赤いほど密度が高く、青いほど密度が低い(電離ガスが豊富)/ Credit: 東京大学宇宙線研究所(2025)

これはブラックホールが、進化しつつある何らかの巨大構造の“縁”に沿って分布していることを示唆します。

たとえば、2つの銀河団が重力によって接近しつつある場所、あるいは宇宙のフィラメント構造が交差する地点などです。

チームはこの構造を「宇宙のヒマラヤ(Cosmic Himalayas)」と名付けました。

それはまるで、山脈が大地の境界にそびえ立つように、異なる宇宙の構造の“境界”にこのクエーサー集団が並んでいるからです。

この構造が特別な場所だったのか、それとも“宇宙の節目”のような一瞬の出来事だったのか――その答えはまだ出ていません。

今後は、すばる望遠鏡に新たに導入される「多天体分光器(PFS)」を活用した観測が予定されています。

これにより、より広範囲・高精度で銀河やガス、ブラックホールの分布を解析でき、今回の発見が宇宙全体でどれほど一般的かを見極めることができるでしょう。