光と音が強く結びついたこの実験系では、散乱光子が「ゼロだった」という観測情報を得た時点で、「音波のエネルギーがより低い状態だった」と状態が更新される(確からしくなる)と理解できます。
共同第一著者の一人であるエヴァン・クライヤー=ジェンキンスさんは「最初はこの結果にとても驚きました。しかし、我々の実験では光と音が相関しているため、測定で得られた情報によって音波の状態をさらに冷却できることがわかったのです」と説明しています。
さらに興味深いことに、光を測定しない場合(いわば「目を閉じて何も見ない」場合)は、通常のレーザー冷却によって音波の振動が冷やされていましたが、光子を一個検出してしまった場合には音波がかえって熱く(振動が増えて)しまいました。
これに対し、光子を検出しなかった場合には音波の振動がレーザー冷却単独よりも冷えた状態になっていたのです。
つまり、量子の世界では「何も起きなかった」という結果が得られたときに限り、振動エネルギーを従来以上に下げる(冷却する)ことができたということになります。
ゼロ光子が拓く超低温テクノロジーの地平
今回の成果は、物理学者たちに「何もないことも、実はとても意味がある」というメッセージを突きつけています。
共同第一著者のジャック・クラークさんも「何かが存在しないと気づくことは、その存在に気づくのと同じくらい多くを語ってくれるのです」と述べており、日常生活でも雨が降っていないことや鍵が見当たらないことから多くの情報を得ているのと同じだと説明しています。
このゼロ光子検出という量子計測の技術を使えば、対象の振動エネルギーを従来の限界を超えて下げられる可能性が示されたわけです。
今回の研究論文はアメリカ物理学会の学術誌「フィジカル・レビュー・レターズ (Physical Review Letters)」に2025年2月に発表され、量子測定と制御の分野に新たな道を拓く成果として注目されています。