その表面を覆う酸化鉄ゆえに「赤い惑星」とも呼ばれる火星。太陽系最大の火山オリンポス山から、長大なマリネリス峡谷まで、驚くほど多様な地形を持つ惑星だ。現在は薄い大気と極寒の気温のため、生命にとっては過酷な環境だが、古代の河床や極地の氷床の痕跡は、かつて火星に液体の水が存在し、単純な生命体が生息していた可能性を示唆している。

 そんな火星を地球のように生命が住める環境に変える「テラフォーミング」という構想は、人類の未来の確保、かつて水が流れていた惑星の再生、孤立した前哨基地を超えた自給自足可能な居住地の建設、そして科学探査の拡大といった、様々な動機から生まれてきた。

 火星は手つかずのまま残すべきだという意見もあるが、テラフォーミングに関する倫理的な議論の前に、まず「実際にそれは可能なのか?」という現実的な問いに答えなければならないだろう。驚くべきことに、火星のテラフォーミングの実現可能性に関する包括的な研究は1991年以来更新されていなかったが、学術誌「Nature Astronomy」に掲載された新たな論文が、その可能性に新たな光を当てている。

テラフォーミングを後押しする3つの進歩

 パイオニア・リサーチ・ラボのエリカ・アルデン・デベネディクティス氏率いる研究チームは、極限環境に強い微生物の研究を行う非営利団体である同ラボにおいて、火星テラフォーミング研究への関心を再燃させるべき3つの重要な分野における最近の進歩を強調している。

 それは、気候モデリングと工学技術の向上、極限環境微生物と合成生物学の理解におけるブレークスルー、そしてスペースX社のスターシップのような宇宙技術の大幅な発展だ。スターシップは火星へのペイロード(輸送物資)コストを1000分の1に削減できる可能性があるという。これらの進歩は、火星を居住可能にするための3段階のアプローチを示唆している。

 過去30年で、火星テラフォーミング研究は初期の提案から大きく進展した。現在の火星は過酷な環境だが、気温が少なくとも摂氏30度上昇すれば、生命を支えるのに十分な氷の埋蔵量と土壌養分が存在する可能性があるのだ。太陽光反射ミラー、特殊なエアロゾル(大気中の微粒子)、シリカエアロゲルのような材料を用いた地表改質など、新たな温暖化手法は以前の提案よりも効率的であると見られている。

 これら技術と、利用可能な打ち上げ能力の増強を組み合わせることで、今世紀中に火星を十分に温暖化させ、液体の水を存在させ、最初の極限環境微生物を定着させることが可能になるかもしれない。

惑星改造「テラフォーミング」は本当に可能?火星移住へのリアルな道筋と立ちはだかる壁
(画像=イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI),『TOCANA』より 引用)