実際にこの地域はネアンデルタール人が暮らしていたことで知られ、他方でホモ・サピエンスの証拠は検出されていません。
こうした点からも、指紋を残したのはネアンデルタール人と見て間違いないようです。
加えて、赤土の指紋は偶然に付着したものではなく、指先で意図的に塗布されたものであることが化学分析から明らかになっています。
酸化鉄系の赤土が指の腹によって均一な力で押し付けられていることが示され、この人物が意図して指紋を残したことが窺えるのです。
では、ネアンデルタール人はこの石に何を見ていたのでしょうか?
石を「顔」に見立てていた?
先ほども言及したように、石の表面を見た研究者たちは、3つのくぼみの配置と中央の赤い点が「人の顔のように見える」ことに気づきました。
左右対称の小さなくぼみは「目」、下に位置する大きめのくぼみは「口」、そしてその中央に置かれた赤い指紋は「鼻」。
まるで顔の構成要素がそろったかのように見えるのです。
データ解析により、この構成が偶然である確率はわずか0.31%とされ、非常に低いものと判定されました。
さらに距離関係を解析すると、くぼみと赤点はほぼ二等辺三角形を形成しており、幾何学的にバランスの取れた構図となっています。
このような幾何的・視覚的配置が偶然に形成されるとは考えにくく、研究者たちはこれを「意図的な構成=視覚的シンボル」と見なすに至ったのです。

ここで注目されるのが「パレイドリア」という現象です。
これは雲の形に顔を見たり、電源タップの穴が笑っているように見えたりする、人間の脳が“意味あるパターン”を認識しようとする認知現象のことを指します。
研究者たちは、このネアンデルタール人も私たちと同じように、岩のくぼみに“顔らしきもの”を見て、それを強調するように赤い点(=鼻)を加えたのではないかと推測しています。