メルツ首相は今回、その国是を打ち破ったことになる。メルツ氏は「ドイツは引き続きイスラエルの側にしっかりと立っており、歴史的な理由から今後も世界のどの国よりも、イスラエルに対する公的な批判を自制しなければならない国だが、ハマスのテロとの戦いでは民間人の苦しみを正当化することはできない」と指摘している。

看過してならない点は、メルツ首相のイスラエル批判は首相個人の突発的な発言ではないことだ。イスラエルのガザ地区での行動を踏まえ、ドイツで静かだが、対イスラエル政策の再考が進められてきている。そのようなプロセスの中でメルツ氏の発言が出てきたわけだ。

例えば、ドイツの反ユダヤ主義担当委員であるフェリックス・クライン氏は、「イスラエルと世界中のユダヤ人の安全を守るために、私たちは全力を尽くさなければならないが、同時に、これが全てを正当化するものではないことも明確にしなければならない。パレスチナ人を飢えさせ、人道状況を意図的に劇的に悪化させることは、イスラエルの存在権を確保することとは何の関係もない。そしてそれはドイツの国家存在理由でもない」と述べている。ただし、イスラエルのガザでの行動を理由にイスラエルへの武器供給を停止するよう求める社会民主党(SPD)議員らの要求には反対している。

同氏によれば、イスラエルの現政府の行動と国家としてのイスラエルを識別する必要があるというわけだ。具体的には、ネタニヤフ政府を批判できても、イスラエル国自体を糾弾することはできないという立場だ。

欧州ではイスラエルに対する批判が勢いを増し続けている。スロベニアのナターシャ・ピルツ=ムサル大統領は、「ガザで我々が目にしているのはジェノサイドだ」と述べている。また、スペインとフランスはイスラエルとの連合協定の見直しを推進している。アイルランドは26日、占領地で活動する企業との貿易禁止を検討していると発表。スウェーデンはイスラエル大使を召喚し、EUに制裁を求めると発表している、といった具合だ。