つまり、光によってPer2が活性化され、それが好中球に昼間であることを「知らせるスイッチ」の役割を果たしていると考えられます。
光を浴びることは、免疫にとっての「目覚まし時計」
では、Per2はどのようにして好中球の殺菌能力を強化しているのでしょうか?
研究では、好中球が細菌を殺すために利用する「活性酸素種(ROS)」の産生能力を測定しました。
その結果、Per2が欠損した細胞では、ROSの生成量が通常の1/8以下に低下していました。
さらに、好中球の中でPer2が免疫活性遺伝子「hmgb1a」の発現を促進することも判明しました。
この遺伝子は、感染時に細菌の標的となる分子パターンを認識し、免疫反応を高める働きを持っています。
驚くべきことに、このhmgb1aのプロモーター領域(=遺伝子の発現を制御するDNAの領域)には、「BMAL1」と「NF-κB」という2つの転写因子の結合部位があり、光によってそれらが協調して働くことが明らかになったのです。
これにより、光が差す時間帯にだけhmgb1aの発現が高まり、好中球の攻撃力が最大化されるという、まさに光と免疫が直結したメカニズムが浮かび上がりました。

さらに研究は続き、Per2のパートナーである「Cry1a」という別の時計遺伝子が、なんと逆に免疫を抑制する方向に働いていることも明らかにされました。
Cry1aを欠損させた魚では、好中球の殺菌能力が著しく上昇し、hmgb1aの発現も大幅に増加。
つまり、Per2が免疫を促進し、Cry1aがブレーキをかける――この二者のバランスが免疫リズムの鍵を握っていたのです。
この研究は、日光がただ単に体内時計を整えるだけでなく、免疫システムそのものを「日中モード」に切り替える役割を持っていることを実証しました。
好中球の中に内蔵された光感受性の時計が、昼間になると殺菌遺伝子のスイッチを入れ、体を感染から守る態勢を整える――それはまるで、私たちの細胞ひとつひとつに目覚まし時計が備わっているかのようです。