1930年代、世界中で中央銀行券の兌換が停止された。このことで信用貨幣性は後退し国家紙幣性が強まった。今回の紙の手形の廃止でそれは完成する。中央銀行券は純然たる“不換紙幣”になった。

国家紙幣は古くは戦争のため、そして現代では危機に陥った大銀行を救うため、国家の赤字を補填するために使われる(求められる)※5)。しかし救いの神は突然に悪魔に変身するかもしれない。2008年、あのときまでまるでスターのように輝いていた巨大投資銀行が世界の破壊者となった。今度は、資本主義の最も基本的な道具が魔女の杖になるかもしれない。

※5)実際には国家紙幣を大量発行して被救済者に渡すのではなく、彼らの預金に振り込む。被救済者はいつでも国家紙幣を使える状況になる。この状態を救われた状態というのである。2008年、リーマンのニック・ファルドがFRB に求めたのは、その状態である。

国家の再登坂

英国の政治学者、スーザン・ストレンジは新自由主義を象徴する言葉として「国家の退場」を自署のタイトルとして示した。

2008年の事件を経験して、ユルゲン・コッカ(Jürgen Kocka)は、新自由主義が衰えた後の世界について控え目ではあるが次のように述べている。

「2008年からの国際的な金融危機が、「再活性化した市場資本主義」の段階の終わりと、その次の第四段階の開始を告げるものであるかどうかの判断は将来に委ねなければならない」(『資本主義の歴史』、P.161、2018年、山井敏章訳、人文書院。)

“第四段階”(『The NEXT』の第4楽章と時代区分はまったく同じ)の特徴は、債務の膨張を土台にした国家の多方面での再登坂であるとしている。金融化の背後にも、労働運動の衰退のひとつの要因としても国家の介入は見逃せない。

「大きな社会問題の軽減は、強力な国家の強力な介入なしには成功しないであろう。」(同上書、P.154)