そのため投票率が高くてもあまり政治に影響を与えません。その最大の理由は、選挙制度と政治資金をめぐる“仕組み”にあります。

たとえば、大統領選挙で採用されている「選挙人制度」は、日本人にはなじみのない仕組みです。これは、各州に割り当てられた「選挙人」が代わりに大統領を選ぶというもので、しかも多くの州では得票数に関係なく、勝者がその州の全選挙人を獲得する“総取り方式です。

イメージとしては、47都道府県それぞれが選挙団体を持ち、東京都で51%の票を取った候補が100%の都民の意思として代表されるようなものです。これでは実際の総得票数と最終的な勝者が一致しない事態が起きて当然です。実際に2000年や2016年には、得票数で負けた候補が大統領になっています。

さらに問題を複雑にしているのが「ゲリマインダー(Gerrymander)」と呼ばれる制度です。これは政党に有利なように選挙区を恣意的に引き直すことができるもので、日本で例えるなら、自分の党を支持する市町村だけを寄せ集めて“勝てる選挙区”をつくるようなものです。

青:民主党、赤:共和党と考えた場合、aの区分けでは民主党が勝つが、cの区分けにすると共和党が勝利する
青:民主党、赤:共和党と考えた場合、aの区分けでは民主党が勝つが、cの区分けにすると共和党が勝利する / Credit:Wikimedia Commons

しかもこの区割りを、政権党が州単位で合法的にできてしまうという点がアメリカの構造的欠陥です。

また、アメリカでは企業や団体が政治家に巨額の資金を提供することが合法であり、制度的にも「言論の自由」として保護されています。選挙資金はPAC(政治行動委員会)やスーパーPACという仕組みを通じて動き、これによって政策の優先順位が「多くの有権者の声」ではなく、「大口献金者の意向」に沿って決まるという事態も少なくありません。

ロビイストは、こうした仕組みを通じて、「選挙資金を提供する代わりに、法案を有利に扱ってほしい」という圧力をかけます。日本にも政治献金がありますが、PACは候補者個人を支援できたり、スーパーPACは上限金額がないなど日本の場合とは異なります。