具体的には、アンケート調査で「高所から落ちても自分で飛んで安全な場所に移動できる」と感じていた人ほど、恐怖が大きく減少していたといいます。
これは「もし高所から落ちたとしても、自分の行動で危険を回避できる」という行動ベースの予測が、恐怖心そのものを和らげる可能性を示しています。
このことは従来の「繰り返し曝露」に頼る治療法とは異なる、まったく新しい恐怖低減メカニズムが存在することを示唆しています。
また、没入感や映像視聴などの影響は統計的に除外されており、実際に「自ら飛んだ」という体験こそが効果の鍵となりました。
飛行体験によって「万が一落ちても自分で飛んで安全に戻れる」という強い安心感が生まれ、2回目の高所歩行では初回ほどの恐怖を感じなくなったとチームは指摘しています。

一方で、今回はあくまでもVR内での結果であり、現実世界での高所恐怖症にも効果があるかどうかはわかりません。
それでも研究者たちは「VRでの飛行体験による行動予測が恐怖低減につながる」という成果を足がかりに、今後は現実世界への応用を目指すとしています。
高所恐怖症だけでなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など他の恐怖症治療にも役立つ可能性があります。
「空を飛ぶ」という非現実の体験が、現実の恐怖を和らげる――。
NICTによる今回の研究は、VRが単なる娯楽の枠を超え、医療や心理療法にも革命をもたらす可能性を示しました。
今後の臨床応用が進めば、VR空間での飛行訓練が高所恐怖症の克服法として標準治療のひとつになる日も遠くないかもしれません。
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参考文献
VRで自ら飛ぶ体験をした人は、「落下しても飛べる」と予測し高所恐怖が低減される
https://www.nict.go.jp/press/2025/05/14-1.html
元論文
Transition ability to safe states reduces fear responses to height
https://doi.org/10.1073/pnas.2416920122