通常、材料は温度の上昇に応じて膨張します。

それは温度の上昇が、原子結合の長さの増加に直結するからです。

さらに温度上昇が原子を回転させ、構造が変化する場合もあります。

ところがこの材料では、温度が上昇しても「結合」「酸素原子の位置」「原子配列の回転」にはわずかな変化しか見られません。

研究チームによると、この熱安定性の正確なメカニズムは完全には解明されていないとのこと。

しかし、「おそらく結合の長さ、角度、酸素原子の位置が互いに協調して変化し、全体の体積を維持している」と予測しています。

この材料は、将来的に航空宇宙工学の分野で役立つかもしれません。

スペースシャトルは打ち上げ時や大気圏再突入時、また宇宙空間で極度の熱と寒さにさらされるため、熱膨張ゼロの材料が大きな助けになるのです。

また医療用インプラントのように、温度変化の範囲は少ないものの、わずかな熱膨張で重大な問題を引き起こすケースでも重宝されます。

「Sc 1.5 Al 0.5 W 3 O 12」は、さらなる研究が進められており、大規模製造に向けた製造方法やコスト削減法が検討されています。

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参考文献

Extraordinary new material shows zero heat expansion from 4 to 1,400 K
https://newatlas.com/materials/thermally-stable-zte-advanced-material/

元論文

Sc1.5Al0.5W3O12 Exhibits Zero Thermal Expansion between 4 and 1400 K
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.1c01007

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。