同じ怪我をしても、「あー痛い痛い!」と大騒ぎする人もいれば、平然と「大丈夫」と言って耐える人もいます。
この差は一体どこから来るのでしょうか?
痛みの感じ方は極めて個人差が大きく、その評価は常に主観に頼らざるを得ません。
しかし、そんな「主観の壁」を超えようとする試みが進んでいます。
では、痛みを定量化することは可能でしょうか?またそうすべきでしょうか?
英国シェフィールド大学(TUOS)の科学者であり哲学者でもあるローレンツ・カッサー(Laurenz Casser)氏は、「痛みの客観的測定」の可能性と、その限界について解説しています。
目次
- 大げさ?我慢強い?痛みの程度を客観的に測ることは可能?
- 「痛みの客観的指標」は自分の正しさを証明できない
大げさ?我慢強い?痛みの程度を客観的に測ることは可能?
痛みを客観的に測ることは実現するのでしょうか?
従来、医師は患者に「0から10でどのくらい痛いですか?」と尋ねたり、子どもには笑顔から泣き顔までのイラストを見せて選ばせたりしてきました。

これらは、最も簡単で現場で広く使われている痛み評価の方法です。
なぜなら、「自分の痛みは自分にしかわからない」という原則があるからです。
しかし、この手法には重大な問題があります。
人によって痛みの感じ方は異なり、「少しの痛みでも10」と言う人もいれば、「骨折でも4」と答える人もいます。
つまり、痛みの数字はあくまで主観の産物であり、医師側には正確な基準が存在しません。
そこで近年、複数の研究機関が「痛みの客観的測定技術」の開発に取り組んでいます。
カッサー氏によれば、世界中でいくつかの研究室が痛みの経験と相関する「バイオマーカー」を追跡するデバイスの開発に注力しているそうです。
バイオマーカーとは、痛みを感じるときに生じる生理的な変化のことで、例えば特定の神経線維の活動、瞳孔の拡大、血流の変化などが含まれます。