社債市場の効率性とは、社債の価格と、その価値が一致していることである。効率性は、理論的な要請だから、現実には、市場には、非効率性、即ち、価格と価値の不一致が常に存在する。バリューという英語は、本来は価値を意味するが、投資の世界では、価値よりも価格が低いときに、その差を表現するものとして使われている。投資の機会とは、非効率な価格が効率化する過程、即ち、価値に一致していく過程にあるのであって、バリューは、解消することによって、投資の利益になるわけである。
ところで、社債の発行に際して、発行体は、信用格付業者に依頼して、格付を取得するのが普通である。社債投資の専門家である投資運用業者にとっては、自らの調査分析力で独自の投資判断を形成している以上、信用格付は不要なのだが、専門家でない一般の投資家にとっては、参考意見としての信用格付は有益だと考えられているからである。
こうして、社債市場においては、信用格付に従う投資家の集団と、信用格付にとらわれることなく独自に投資判断をする投資家の集団とがあって、両集団が対峙することで、社債の価格形成がなされることになるから、信用格付の変化による一般投資家の売買行動は、常に、専門的知見をもつ投資家に対して、バリューを提供するはずである。

RomarioIen/iStock
さて、バリューについては、バリュートラップ(value trap)があり得る。トラップは罠で、バリューの解消しない事態、即ち、非効率な状況の継続する事態が罠に喩えられているのだが、信用格付に従う投資家の力が優越する社債市場では、バリューは解消せずにトラップに陥りやすいばかりか、逆に、バリューが拡大してしまうことすらあると考えられる。
背景には、社債市場においては、金融機関が投資家として大きな役割を演じていて、金融機関は、総じて、信用格付に基づく類似した信用リスク管理手法を採用していることがある。こうした現実は、社債市場の効率性に対して、重大な疑義を提示するものなのである。