研究者たちは、精子が温度そのものを手がかりにして自らを活性化させているのではないかと考え、その仕組みを探りました。

精子が受精直前に示す激しい運動は「ハイパーアクティベーション(超活性運動)」と呼ばれ、卵の殻(透明帯)を突破するために不可欠です。

この超活性運動を引き起こすカギとして、精子の尾部に存在しある種のセンサーとして機能する「CatSper(キャットスパー)チャネル」というカルシウムイオン通路が知られていました。

CatSperは精子にカルシウムイオンを流入させ、鞭を打つような力強い尾の動きを生み出します。

実際、CatSperが欠損したマウスやヒトの男性は不妊になることから、CatSperは受精に必須の分子機構と考えられてきました。

しかし、どのような条件でCatSperが作動スイッチを入れるのかについては謎が残されていました。

従来は「女性生殖器内のpH(酸・アルカリ度)の変化」や「霊長類では卵子周囲の黄体ホルモン(プロゲステロン)」が精子を活性化すると考えられてきましたが、後者は霊長類以外の多くの哺乳類には当てはまらず決定打ではありませんでした。

そこで注目されたのが「温度」です。

オスの精巣がわざわざ低温に保たれている事実からしても、温度が精子のスイッチを入れる直接の要因ではないかと推測されたのです。

本研究の目的は、この推測を確かめ、精子が温度センサー機能を持つかを明らかにすることでした。

38℃でスイッチオン:精子が超活発になる瞬間

38℃でスイッチオン:精子が超活発になる瞬間
38℃でスイッチオン:精子が超活発になる瞬間 / Credit:clip studio . 川勝康弘

研究チームはまず、マウスの精子に微小電極を取り付けて電流を測定する先端的な手法を用い、精子のイオンチャネル活動を直接観察しました。

徐々に周囲の温度を上げていく実験により、精子のCatSperチャネルが約33.5℃という特定の閾値で開き始めることが突き止められました。