「最近の学生は昔と比べて質が低い」―採用現場でこの言葉を聞かない日はありません。「考えられなかったような基本的な間違いをする学生が増えた」「簡単な計算問題も解けない学生が目立つ」という声もよく耳にします。

では、本当に学生の質は低下しているのでしょうか。

kabu/iStock

大学進学をめぐる構造変化

文部科学省「学校基本調査」のデータを見てみましょう。

1990年の状況 ・18歳人口:201万人 ・大学進学率:24.7%(49.5万人) ・大学数:507校

2023年の状況 ・18歳人口:106万人(1990年比47%減) ・大学進学率:59.5%(63.0万人) ・大学数:795校(同57%増)

この数字が示すのは、18歳人口が半減したにもかかわらず、大学進学者数は27%増加し、同時に大学数は1.5倍以上に膨れ上がったという事実です。

単純計算すると、

・1990年=1大学あたり約980人の入学者 ・2023年=1大学あたり約790人の入学者

各大学は限られた受験者層から従来より少ない入学者で運営せざるを得なくなっており、採用基準や教育実践への影響は避けられません。

採用市場での人材確保競争の激化

HR総研の「2024年新卒採用動向調査」は、企業の採用行動の変化を如実に示しています。

2014年 ・平均エントリー数:86.8名 ・内定者1人あたりの接触学生数:16.3人

2024年 ・平均エントリー数:56.4名(35%減) ・内定者1人あたりの接触学生数:27.8人(71%増)

これは企業の採用難を示す指標として注目すべきデータです。同じ人数を確保するために、企業はより多くの学生と接触しなければなりません。この競争激化により、従来とは異なる層からの採用も増えている可能性があります。

採用現場で感じられる違和感には、複数の要因が考えられます。採用母集団の変化により多様な背景を持つ学生が採用対象になっていること。さらに、デジタル化などにより、評価基準そのものが変化していること。結果的に、以前と比べて、学生に対する要求水準が高まっている可能性が否定できません。