大企業や上場企業において、二酸化炭素(CO2)に代表される脱炭素はもはや必須の経営課題だ。中小企業庁は、日本の雇用の約7割を支える中小企業は、日本全体の温室効果ガス排出量のうち、約2割程度を占めていると指摘している。中小にも脱炭素への取り組みは求められるが、大企業と違って自社単独で行うことは難しい。よって、中小企業はバリューチェーン(原材料の調達から生産、出荷、販売、アフターサービスといった事業活動)の中でCO2排出量削減に貢献することが求められている。環境省は2025年度、メーカーなど大企業が取引先と共同で排出削減に取り組む場合に、設備の導入費用の一部を補助する制度をスタートした。正式な事業名は「Scope3排出量削減のための企業間連携による省CO2設備投資促進事業」という。そこで今回、環境省に取材した。
「大企業の使命として、自社のバリューチェーン全体でCO2削減というものがあっても、他社に対して働きかけにくいというジレンマもあるだろう。新事業では、サプライヤーなどに対して『削減してください』と要請するだけではなく、事業の枠組みにおいてサプライヤーに設備導入の補助金が支給されるメリットもある。大企業にとってバリューチェーンで削減効果が見込める」(環境省地球環境局地球温暖化対策事業室)
大企業等が取引先と連携して現状より30%以上のCO2削減を見込める設備を導入した場合、25年度から最大3年間にわたって計15億円を上限に補助する。補助率は大企業が3分の1、中小企業が2分の1とする。年間3000トン以上を減らす場合は、大企業も補助率を2分の1に引き上げる。
「基本的には子会社ではない取引先が対象。資本関係のない他社に対して働きかけて排出を減らしてもらおうというのが本事業の目的。工場のような建物の中にある生産設備をより高効率なものにするとか、燃料を低炭素なものに変えてもらったりするとか、そういうことでCO2を減らしてもらうものだ。大企業が取引先に呼びかけて、合意が得られれば一緒に応募してもらう形になり、補助金を受けるのは、取引先の中小企業等」(同)
新制度導入の背景には、脱炭素経営の国際潮流を踏まえ、大企業では自社以外の取引先等(Scope3)におけるCO2排出量の削減の重要度が増していることがある。
「Scope」とは? 企業の対応が遅れるScope3
モノが作られ廃棄されるまでのバリューチェーンにおいて、CO2をはじめとした温室効果ガス(GHG)排出量の捉え方はScope1、Scope2、Scope3の3つに分類されている。Scopeの概念は、温室効果ガス算定・報告の国際基準である「GHGプロトコル」で定義されているものだ。
Scope1は、燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が「直接排出」するGHGを指す。Scope2は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHGが対象だ。つまり、Scope1とScope2は、企業が自社の活動を通じて排出しているGHGを対象としている。
Scope3は、1と2以外で、原料調達・物流・販売、製品の使用や廃棄などバリューチェーン全体で発生する自社の事業活動に関連した“他社の排出”を指す。Scope3は、企業が直接管理していないため、総じて算定が複雑になりがちだが、その影響力は無視できないようになってきた。また、複雑なバリューチェーン全体の排出量の把握が必要になることからScope1、2と比べて多くの企業で対応が遅れている。
しかし、有価証券報告書におけるScope3の開示義務化は迫っている。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年6月、Scope3の開示義務化を確定した。これにより、2026年度(2027年3月期)から、東京証券取引所プライム市場に上場する時価総額3兆円以上の企業約70社に対し、Scope3を含めた気候関連情報の開示が義務化される見通しだ。2027年度には対象が同1兆円以上となり、対象企業は160~170社になる。
環境省の新制度は、開示データの準備に追われる大企業を後押しするものになる。