トランプ米政権の高関税政策が国内経済に与えるダメージへの警戒感が広がっている。日銀は1日発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、成長率や物価の見通しを下方修正、2%の物価目標の実現時期も先送りした。昨年3月にマイナス金利政策を解除した日銀は、今年1月に政策金利を0.5%に引き上げるなど正常化を進めてきたが、先行きの不確実性が急速に高まる中、利上げ戦略に大きな誤算が生じている。

◇基調的物価「足踏み」

「基調的な物価はいったん足踏みする。物価が伸び悩んでいる時に無理に利上げすることは考えていない」。植田和男日銀総裁は1日の記者会見で、景気や物価見通しの下振れを受け、追加的な利上げを一時中断する可能性を示唆した。

 展望リポートでは、「経済・物価見通しが実現していくとすれば、引き続き政策金利を引き上げ、緩和度合いを調整する」としたが、植田総裁は「どこで見通し実現の確度に自信を持てるか今の時点で何とも言いにくい」と指摘。当面は米関税政策の影響を慎重に見極めていく考えを示した。

◇早期利上げ観測後退

 日銀は展望リポートで、2025年度の成長率の見通しについて、従来の前年度比1.1%から0.5%に大幅に引き下げた。26年度の物価上昇率見通しも従来の2.0%から1.7%に下方修正。26年度までに達成すると想定していた2%の物価目標の実現も27年度にずれ込んだ。

 市場でも早期の政策修正観測が後退している。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「年内の追加利上げは棚上げされ、来年1~3月に再開されるのではないか」と予想する。

 米国による日本への相互関税上乗せ分の発動は90日間猶予されたが、実際に課されれば影響は甚大だ。株式市場や円相場の動揺に加え、企業収益や消費者心理の悪化で景気が後退すれば、日銀の利上げ路線そのものも頓挫しかねない。

◇30年越えられぬ「壁」

 さらに、日銀には「トランプ米政権の政策は予測不能だ。今回の展望リポートの内容は、大きく変わり得る」(幹部)との懸念も強い。

 日銀は1995年に当時の政策金利である公定歩合を1%から0.5%に引き下げた。それ以降、日銀は過去30年にわたって政策金利を0.5%より高い水準に引き上げられずにいる。福井俊彦総裁当時の2007年に政策金利を0.5%に引き上げたものの、その後リーマン危機に直面し、緩和に転じた経緯がある。

 日銀は景気を刺激も冷やしもしない「中立金利」について最低でも1%と推計。同水準までの利上げを模索しているが、またもや0.5%の「壁」を越えられない可能性も浮上する。経済の好循環を目指す日銀のシナリオが狂いつつある。(了)
(記事提供元=時事通信社)

提供元・Business Journal

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