●この記事のポイント
・米アップルが中国で製造している米国向けスマートフォン「iPhone」について、2026年末までに全量をインドでの製造に切り替える計画
・米国で販売されるiPhoneは年間6000万台以上であり、その約8割が中国で製造
・スマホは米国政府による高関税の対象外になる可能性があるものの、将来的なリスクを回避する

 英紙フィナンシャル・タイムズは、米アップルが中国で製造している米国向けスマートフォン「iPhone」について、2026年末までに全量をインドでの製造に切り替える計画を持っていると報じた。米国で販売されるiPhoneは年間6000万台以上であり、その約8割が中国で製造されているという報道もある。米国のトランプ政権は相互関税政策により中国に計145%の関税を課しているが、米国の消費者への影響を考慮してスマートフォンや半導体などの一部電気機器を除外する方針を示している。それでも、なぜアップルは中国での大幅な生産縮小を計画しているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

アップル「チャイナ・プラス・ワン」構想 「直接的な理由は米国の中国に対する高関税政策であり、現時点ではスマホは高関税の対象外になる可能性があるものの、将来的なリスクを回避するための動きだとみられます。大きな背景としては、2017年の第1次トランプ政権時にアップルが『チャイナ・プラス・ワン』という構想を掲げて、中国への製造依存からの脱却を図り、代替国として選んだのがインドだったという点があげられます。その流れもあり、現在ではアップルはEMS(電子機器受託製造サービス会社)の台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)やインド財閥タタ・グループなどを通じてインドでのiPhone製造を拡大させ、その数は2025年にも年間2500万台ほどの規模になるという情報もあります。このようにインドで安定して大量生産できる体制が整いつつあります。

 また、インドで外資企業が直営で自社商品を販売するには、一定程度の現地調達比率を達成する必要があり、インドで直販するためという目的もあるでしょう。インドは世界一大きい人口を持ち、かつ中国とは異なり民主主義国家なので、国のトップの一存でガラッと方針が変わるという事態が起きにくいという判断もあるでしょう。もっとも、香港の調査会社カウンターポイント・リサーチの調査によれば、世界のiPhone製造の約75%は中国で行われており、インドはまだ10%台だとみられ、圧倒的に中国のほうが多いのが現状です」

 こう解説するのはニューズフロントLLPのパートナーの小久保重信氏だ。インドに製造を切り替える上でアップルにとってリスクはないのか。

「中国のようなiPhone製造に関する大規模なサプライチェーンが、まだインドでは確立されていないとみられ、一部の部品は中国から輸入する必要があります。また、労働力の確保という面では、中国のような熟練の労働力を大量に確保できるのかという問題や、労働環境の安全面や労働者の待遇面で問題があると人権保護の観点から世界で不買運動が生じるリスクもあります。このほか、地政学的リスクも存在します。インドと中国は国境で紛争が起きたりと関係が悪化しており、中国から技術者がインドに入国しにくくなるかもしれません。アップルとしては中国の工場の熟練技術者を数多くインドに派遣して製造能力を高めたいところですが、それが拒まれる可能性もあります」(小久保氏)

実現されるかは不透明  もっとも、現段階ではあくまで計画であり、実現するかは不透明な部分も大きいという。

「2026年末までに6000万台ということは、2025年のインドでの製造台数が約2500万台だと仮定すると、来年末までに2倍以上に増やすという計算になり、果たして本当にできるのかという問題はあるでしょう」(小久保氏)

 大手携帯キャリア関係者はいう。

「中国には長年かけて蓄積された、膨大な量のiPhoneを一定の品質を維持して製造するノウハウと、巨大なサプライチェーンがあります。それを1~2年で他国に切り替えるというのは、いくらアップルでも困難です。製造拠点をインドに移したことで商品の品質が安定しないという状態になると、アップルは経営的にもブランド的にも大きなダメージを負うため、実現されるのかどうかはなんともいえません。計画はあくまで計画なので、社内で検討されているシナリオの一つとして、そういう案があるという程度のことかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=小久保重信/ニューズフロントLLPパートナー)

提供元・Business Journal

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