チームは、考古学的資料とDNA分析、骨の形態測定、炭素年代測定などの手法を駆使して、これまでのネコ家畜化史を徹底的に見直しました。
ヨーロッパ、アナトリア、北アフリカ、ブルガリア、イタリアの各地の考古遺跡から採取された70体の古代ネコのゲノムを調べたところ、イエネコの直接的な祖先はヨーロッパヤマネコではなく、アフリカ北部にいたリビアヤマネコであることが判明。
さらに遺伝子の解析データから、リビアヤマネコの最初の家畜化は今から約3000年前の古代エジプトである可能性が示されたのです。
「私たちの結果は、現代のイエネコの拡散は新石器時代や肥沃な三日月地帯にさかのぼるのではなく、その数千年後、最も可能性が高いのは北アフリカから始まったことを示していた」と、研究主任のデ・マルティーノ(De Martino)氏は述べています。
では、約3000年前の古代エジプト人はなぜ野生ネコを家畜化しようとしたのでしょうか?
チームが注目したのは、古代エジプトの女神バステトをめぐる信仰との関係です。
バステトは元々ライオンの頭を持つ神として描かれていましたが、紀元前9~7世紀にはネコの頭を持つ姿で表現されるようになります。
この時期から、ネコを神への捧げものとしてミイラ化する宗教儀式が急増しました。
実際にネコの遺体をミイラ化したものがこれまで数多く見つかっています。

神殿には、放し飼いや繁殖されたネコたちが大量にミイラとして奉納され、その数はなんと数百万体にものぼると推定されています。
これほど大量のネコを生贄に捧げるために、いちいち野生のネコを1匹ずつ捕まえるのは効率がよくありません。
特に野生のネコは素早い上に、人間への警戒心も強いため、捕まえるのも至難の業です。
そこで古代エジプト人たちはおそらく、生贄に捧げるために大量のネコを繁殖させるようになり、その中で野生ネコは人間に慣れやすく温和なイエネコへと家畜化されたのだとチームは推測しています。