AIが活躍できるように、社会をリデザインする必要

 では、AIの普及で大量の人が仕事を失うという事態は起きないのか。

「例えば、現在では高性能の翻訳ソフトがたくさんあり、以前ほどは翻訳家の数が必要ではなくなる可能性はあるかもしれません。ですが、日本語で撮影された映画の英語版やフランス語版をつくる際に、やっぱりAIの翻訳ではまったく十分ではないでしょう。会話のような主語や語尾の不完全な文章をAIは正確には翻訳できないですし、その場の状況や雰囲気といったものが指定されない限り、細かいニュアンスも理解できません。またその時代の言葉使いや感覚にあった言葉選びをする必要があります。

 AIが音楽や映像といったコンテンツを生み出すことが話題になることが多いですが、AIが今のレベルに到達できたのは、過去数十年分の人間が作り出したコンテンツを大量に学習したからであって、その数十年分の進化を実現させてきたのは人間であるわけです。80年代に今のAIがいたとしても、80年代のコンテンツの模造品を生産し続けるだけです。現在のレベルのコンテンツに至ることはAIだけでは難しいのです。

 人間がコンテンツの生産をやめるということは、現段階のコンテンツのレベルの中でAIが自分の生み出したコンテンツを学習し生産し続ける『無限ループ』の停滞が続くだけです。19世紀までの写実主義絵画をマスターしたAIがセザンヌなどの現代印象派を超えた作品を生み出すことはないのです。職業がいらなくなるという単純な話ではないわけです。AIによって人間を置き換える、という発想は極めて狭いものです。置き換えるのではなく、人間がAIを使いこなすことで自らを拡張する(エンハンスメント)ことや、社会デザインの形、職業の形、都市の形を、AIが活躍できるように、リデザインする必要があるのです」(三宅氏)

(文=Business Journal編集部、協力=三宅陽一郎/AI開発者、東京大学生産技術研究所特任教授)

提供元・Business Journal

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