一方、オンシフォラは高い湿度を要し、わずかな乾燥や温度変化にも弱い身体を持っています。

こうしたギャップを生んだ要因の一つは、やはり両者が置かれた環境の違いです。クマムシは苔や地衣類など周期的に水分が失われる環境や、極地・高山といった厳しい条件にも進出し、乾燥や放射線などへの強力な抵抗力を身につけてきました。

一方でオンシフォラは常に湿度の高い森林床を拠点とし、粘着液による捕食という生存戦略を磨く方向へ特化。苛酷な乾燥環境に向き合う必要性が低かったため、耐久性を高める遺伝子やタンパク質を発達させる圧力が小さかったと推測されます。

さらに、クマムシにはDNAを保護するDsupタンパク質のように極限環境への耐性を可能にする分子機構が複数知られていますが、オンシフォラは柔軟な体と“スライムガン”を駆使する狩りの戦略を重視するなど、同じ祖先から分かれたとは思えないほど進化の方向性が異なりました。

まとめると、クマムシが“超耐久”を獲得したのは、過酷なニッチを生き抜くために強い選択圧が働いたからであり、オンシフォラが“脆弱”なまま湿潤環境に適応し続けたのは、乾燥への対応を高めなくても十分に繁栄できたからだと言えそうです。

こうした対照的な進化の姿は、「同じ祖先から分かれた生物が、環境や生態の違いに合わせてどれだけ多様な進化の道を辿るか」を雄弁に物語っています。小型化と極限環境耐性に特化するか、柔軟な体と捕食効率を高めるか――生物進化の多彩さを改めて感じさせる好例でしょう。

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ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。