社債の発行に際しては、発行体には、投資家の価値判断が可能になるように、情報の開示が義務付けられている。そのうえ、発行体は、社債の発行に際して、信用格付業者に依頼して、格付を取得するのが普通である。発行体の狙いは、開示情報だけで投資判断を形成できない投資家に対して、専門家の参考意見を提供することで、投資家層の拡大を図ることである。
金融規制当局からすれば、信用格付の利便性によって、社債投資が容易となり、幅広い投資家が市場に呼び込まれるのは望ましいことであるから、金融格付業者を規制していても、信用格付自体は規制していない。しかし、信用格付が投資家の行動を左右する影響力については、深刻な弊害のあり得ることから、注意深く監視しているのである。なかでも、多くの投資家が格付を信用リスク管理指標にしている現実のもとでは、格付の引き下げが大量の売却を誘発し、市場の攪乱要因になり得ることは大問題である。

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さて、理論的に、社債投資の専門家である投資運用業者にとっては、自らの調査分析力で独自の投資判断を形成している以上、参考意見としての信用格付は不要であって、逆に、信用格付との見解の不一致こそ、付加価値源泉になっているはずである。なぜなら、信用格付を基準に行動する投資家の存在が社債価格の変動をもたらすことによって、信用格付を見ない投資家は、より高く売り、より安く買う機会を得るからである。
つまり、社債市場においては、信用格付に従う投資家の集団と、信用格付にとらわれることなく独自に投資判断をする投資家の集団とがあって、両集団が対峙することで、社債の価格形成がなされていると考えられるのである。このとき、両者の力が拮抗していれば、市場は効率的となる、即ち、価格の適正性が維持されるわけである。
しかし、現実には、信用格付に従う投資家の力は優越している。背景には、社債市場においては、金融機関が投資家として大きな役割を演じていて、金融機関は、総じて、信用格付に基づく類似した信用リスク管理手法を採用していることがある。故に、格付の引き下げは、著しく大きな価格下落の原因になってしまう。これは信用格付の弊害ではあるまいか。