その結果、最初の実験ではサンプルの81%に細菌が検出されたのです。最も多かった細菌はラクトバチルス属と呼ばれる細菌で、これは腸内や膣内にも存在する細菌です。
この研究結果は長年の間、無視されていましたが、2010年、マスケル医師は自身の研究を再現するよう研究者に求める論説を書きました。
そして2014年、ロヨラ大学の研究チームが彼女の成果を再現したのです。マスケル医師は彼女自身の成果が再現するのを見届け、2016年に亡くなりました。
マスケル医師の研究を無視したことで、科学界は「30年以上の努力を失った」とウルフ氏は語っています。

これらの研究はすべて、女性のみを対象にした調査です。
女性の場合、尿路と膀胱の距離が近いため、細菌が膀胱へ侵入するなどの問題が起きやすく、今回の一連の研究も過活動膀胱 (OAB) などの泌尿器症状への対処として行われているものです。
こうした成果は、女性の抱える泌尿器症状の問題に対して助けになると考えられます。
そのため、男性の場合で膀胱内の細菌がどのようになっているかは、また別の問題となりそうですが、少なくとも人間の膀胱には通常の尿検査では検出されない細菌叢が存在することは明らかなようです。
これはまでの医学の常識では、尿路上の細菌が尿に交じることはあっても、健康な人の膀胱に細菌は存在せず尿は無菌という考え方が一般的でした。
しかし、尿路上に感染症などを持たない人の尿でも、細菌が存在することは一般的なようです。
ウロバイオームと呼ばれる膀胱の細菌叢が、飲尿などの行為に対して有害に働く可能性があるかどうかは、現在の研究では明らかにされていません。
ただ、今回の研究では女性が膣などに持つ細菌が尿路から侵入して膀胱の細菌叢に含まれることが示されており、腸内の細菌も存在しているようです。
そのため出したての尿は無菌であり、きれいという考え方は捨てた方が無難かもしれません。