本書が明示しているように、日本の平和は地理的幸運や歴史的偶然の上に成り立ってきた。だが、「平和を望むだけでは平和を保てない」という現実が、トランプ政権や中国の台頭によって容赦なく突きつけられている。これまで日本を支えてきた文化的進化が、逆に「変わらないことへの執着」となってしまえば、それはもはや美徳ではなく、国を滅ぼす足枷でしかないだろう。

今こそ日本人は、長く続いた内向きの平和への依存から脱却し、歴史の偶然に甘えず、現実的な国家戦略と自主防衛の意志を明確にすべき時に来ている。『平和の遺伝子』は、そうした覚醒をうながす鋭い問いかけとして、極めて示唆に富んでいる。

『平和の遺伝子:日本人を衰退させる「空気」の正体』(白水社)

はじめに 序章 新型コロナで露呈した「国家の不在」 I 暗黙知という文化遺伝子 第一章 文化はラマルク的に進化する 第二章 「自己家畜化」が文化を生んだ II 国家に抗する社会 第三章 縄文時代の最古層 第四章 天皇というデモクラシー III 「国」と「家」の二重支配 第五章 公家から武家へ IV 近代国家との遭遇 第七章 明治国家という奇蹟 第八章 平和の遺伝子への回帰 第九章 大収斂から再分岐へ 終章 定住社会の終わり