若年個体の化石はTレックスの成長過程を明らかにする上で絶対に欠かせない化石であるため、これは科学的に大きな損失となっています。

さらに商業的な化石業者が現在、博物館の2倍以上の速度でT.レックスの化石を発見しているという実態も明らかになりました。

こうした業者が発見した化石のうち、公的機関に所蔵されたのはわずか11%に過ぎないとのことです。

つまり、残りの大部分の化石は研究者の手の届かない場所や富裕層の手に渡ってしまっているのです。

憤りを隠せないカー氏

カー氏がこの研究に着手した背景には、T.レックスの成長に関する基礎的な情報が、今なお大きく欠けているという課題がありました。

ティラノサウルスの幼年期から成体への発育プロセスには多くの謎が残されており、その理解には複数個体の年齢段階にまたがる比較が不可欠です。

しかしながら、化石の私的所有によって、そうした比較のための資料が失われつつある現状に、カー氏は危機感を募らせたといいます。

特に若年個体の標本が市場に流れてしまうことで、科学界は貴重な発見の機会を永遠に失っているかもしれません。

この現状についてカー氏は次のように憤りを露わにしています。

「T.レックスの初期の成長段階は、化石記録が乏しいことで長年悩まされており、それらを失うことは科学的に非常に大きな損失となります。

現時点では、T.レックスの生物学における最も基本的な側面の理解さえも、市場の利害によって苛立たしいほどに損なわれているのです。

私の願いは、同じ懸念を抱く研究仲間たちが、自分たちの研究対象となる種について、商業市場によって失われている標本の数を数え、論文として発表し始めることです」

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Credit: canva

さらに富裕層の魔の手に晒されているのは、Tレックスの化石だけではありません。

あらゆる種類の恐竜化石が私利私欲や金儲けのターゲットにされているのです。