チームは、40年かけて収集・分析したこの言語データを用いて、今回のAIモデルを開発しました。

イルカと会話できるAIモデルを開発

今回開発されたDolphinGemmaは、Googleの軽量AIモデル群「Gemma」の技術を応用し、約4億のパラメータをもつ音声特化型の大規模言語モデル(LLM)です。

WDPが数十年にわたり収集したタイセイヨウマダライルカの音響データを学習し、野生イルカの音声を入力情報として受け取り、それを解釈した上で、次に出る可能性の高い音を予測・出力する仕組みをもっています。

このモデルの特徴は、イルカの音声を細かく分解・符号化する技術を使用している点にあります。

この技術により、AI側もイルカの自然な発声パターンを忠実に再現できるのです。

画像
イルカの発した鳴き声を音声解析したもの/ Credit: Google – DolphinGemma: How Google AI is helping decode dolphin communication(2025)

チームは、AIだけに頼ったイルカとの会話のみならず、テクノロジーを活用したイルカと人との「双方向のやり取り」も模索しています。

この取り組みの中で開発されたのが「CHAT(クジラ類聴覚補助テレメトリ)」というシステムです。

CHATシステムは水中専用の「会話補助装置」であり、その目的はイルカと簡単な“単語”レベルのやり取りを可能にすることです。

その仕組みは、自然なイルカの鳴き声とは異なる「人工的な笛音」を特定の物体に結びつけることから始まります。

例えば、イルカの好物とする「エビ」にあたるホイッスル音を人工的に作り、それをイルカに学習させて、イルカ側も発音できるように訓練します。

そしてイルカがそのホイッスル音を発すれば、人側が実際のエビを差し出すというように、言語を介した生産的な異種間コミュニケーションが実現できると期待されるのです。