急に高熱を発して汗まみれになり、その後にほとんどの者が1日以内に死に至るという恐るべき謎の疫病が西暦1500年前後のイギリスで流行していた――。数千人の命を奪ったというこの感染症の真の姿は今もわかっていない。
■5回の大流行の後に消滅した中世の謎の疫病
1485年8月の流行を皮切りに、数回の致命的なパンデミックを引き起こし、数千人の命を奪ってその後歴史から忽然と消えた中世の謎の疫病が記録に残されている。
粟粒熱(ぞくりゅうねつ、sweating sickness)と名づけられたのこ疫病はイギリス全土とヨーロッパの一部で少なくとも5回の大流行があったと考えられており、最初の記録は1485年で、1578年と1802年に2回の小規模な流行があり、1528年の大流行から1551年に最後のパンデミックを起こした後、今に至るまで再発していない。
この疫病がどこから来たのか、なぜ消滅したように見えるのか、そして再発する可能性はあるのかどうかなど、まったく不明である。
激しい発汗を伴う粟粒熱だが、発汗の前には、悪寒、頭痛、極度の疲労、手足や肩の痛みなどが現れることもよくあったという。特筆すべき点は急速に病状が悪化することで、最初の症状が現れてから数時間以内にひどい発汗が現れるようになることだ。
粟粒熱を発症した者の約半数が死亡したといわれている。
最初の1日目の発汗を乗り切ることができれば、その多くは助かったということだが、不運にも複数回感染する者もいた。流行にはタイムリミットがあり、感染が地域全体に拡大しつつも数週間以内には終息した。

過去の多くの伝染病がペスト、チフス、インフルエンザといった現在知られている感染症であることが突き止められているが、この粟粒熱の正体は今日に至るまで解明されていない。
科学者たちは粟粒熱の原因としてさまざまな可能性を指摘している。ダニやシラミによって拡散し、回帰熱を引き起こすボレリア菌、ハンタウイルス(主にげっ歯類によって拡散)、さらには細菌性疾患である炭疽菌の吸入感染などが挙げられる。
しかし粟粒熱の既往歴、特に急速な悪化と感染地域からの急速な消失は、これまでのどの感染症のパターンとも一致しないのだ。
ウイルス学者のアントワネット・C・ファン・デル・クイル氏は2022年の論文で、粟粒熱は狂犬病ウイルスと同じ広範な科に属するラブドウイルス科(Rhabdoviruses)の未知の種である可能性を指摘している。
初代サフォーク公爵のチャールズ・ブランドン(1484-1545)の2人の息子、ヘンリーとチャールズはともに1551年7月14日に粟粒熱により相次いで死亡しているのだが、 彼らの墓は現在も残されていることから、ファン・デル・クイル氏は将来的にはこの2人の遺体の歯や骨から病原菌を特定できる可能性に言及している。しかし残念ながら現在の分析技術では難しいようである。
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、現代医学の時代においても感染症が依然として脅威であり続けることを明示したケースとなるが、この粟粒熱の再来は将来の人類の最悪シナリオの1つであることは間違いない。
文=仲田しんじ
提供元・TOCANA
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