●この記事のポイント
・米グーグルが、AIエージェント設計のためのフレームワーク「Agent Development Kit(ADK)」をOSSとして無償で公開したことが注目されている。
・フレームワークやベンダーの垣根を超えてエージェントを連携させるオープンプロトコル「Agent2Agent プロトコル(A2A)」も提供。
・自社の生成AIモデル「Gemini」や「Vertex AI」の普及が目的とみられる。
米Google(グーグル)は9日、AIエージェントを構築・管理するためのプラットフォーム「Vertex AI」の機能を強化すると発表したが、エージェント設計のためのフレームワーク「Agent Development Kit(ADK)」をオープンソースソフトウエア(OSS)として無償で公開したことが注目されている。フレームワークやベンダーの垣根を超えて各社が開発するエージェントを連携させるオープンプロトコル「Agent2Agent プロトコル(A2A)」を提供するほか、エージェントへのデータ提供について、米Anthropic(アンソロピック)の「Model Context Protocol(MCP)」にも対応することを発表した。なぜグーグルはAIエージェントの領域については、技術の囲い込みとは逆のオープン戦略に舵を切っているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
一連の情報はGoogle Cloudが9~11日に米国で開催した開発者向けカンファレンス「Google Cloud Next 2025」で発表された。ADKはエージェントの構築を簡素化するフレームワークであり、エージェントの動作を制御しながら100行未満の直感的なコードでAIエージェントを構築できる。プログラム言語としてはPythonに対応しており、2025年後半に他の言語にも対応予定。ADK は、Gemini や Model Garden からアクセス可能なモデルと連携し、グーグルのモデルのみならず、アンソロピックやMetaなどのプロバイダーの200 以上のモデルに対応しており、最適なモデルを自由に選ぶことができるのが特徴だ。Google Cloudの公式サイトによれば、以下が可能となる。
・決定論的なガードレールとオーケストレーション制御により、エージェントの思考、推論、コラボレーションの方法を設計し、動作と意思決定プロセスを緻密に制御。
・ADK独自の双方向オーディオおよびビデオ ストリーミング機能で、エージェントと人間のような自然な会話が実現。
・Agent Gardenは、すぐに使えるサンプルとツール集で、ADK内で直接アクセスし、開発を迅速に開始。
・Vertex AIへの直接統合で本番環境にデプロイ。開発からエンタープライズ グレードの本番環境への明確なパスは信頼性が高く、エージェントを本番環境に移行する際の一般的なオーバーヘッドを大幅に削減。
A2Aは、フレームワークやベンダーの垣根を超えてエージェント間の通信を可能とするプロトコル。グーグルは、異なるフレームワークやベンダーが構築したエージェント間の連携がAI普及に向けた課題と捉えており、オープンなA2Aプロトコルを開発したと説明している。BoxやSalesforceなど50以上のパートナーが同プロトコルに参加。エージェントはMCP 互換ツールを利用することで膨大で多様なデータソースや機能に接続でき、またADKからエージェントをエンタープライズ システムや機能に直接接続でき、エージェントをゼロから構築し直す必要がなくなる。
このほかにVertex AIの新機能として、AIエージェントを簡単に本番環境にデプロイできるフルマネージド ランタイムの「Agent Engine」なども発表された。
オープン・クローズド戦略
グーグルが無償で公開するADKとは、どのようなものなのか。ソフトウェアエンジニアで合同会社Hundreds代表の大塚あみ氏は次のように解説する。
「グーグルのADKは、AIエージェントを簡単に作成・運用できる開発ツールです。このキットを使えば、複数のAIが連携してタスクをこなす『マルチエージェントシステム』を効率的に構築できます。エージェントとは、人間に代わって作業や判断を自動で行ってくれるAIの仕組みです。例えば、問い合わせ対応やスケジュール調整、データ分析などを自動で行い、人間が何度も同じことを繰り返したり、複雑な判断をしたりする手間を省いてくれます。ADKは、これらのエージェント同士の連携を簡単に実現できる仕組みです」
グーグルが無償で公開する目的・背景は何であると考えられるか。
「グーグルがADKを無償で公開する背景には、生成AIを組み込んで開発する環境であるADKを開発者に提供することで、自社の生成AIモデル『Gemini』やクラウドサービス『Vertex AI』を普及させ、Google Cloudの利用促進を図ることにあるでしょう。ADK自体は無料ですが、GeminiやGoogle Cloudなど関連サービスの多くは有料です。使いやすい無料ツールを提供することで、多くの人にグーグルのAIサービスを使ってもらい、結果的にグーグルの売り上げを増やすことを目指しています。このように、基本ツールを無料で提供し、関連するサービスを有料にすることで利益を出す戦略を、経営の世界では『オープン・クローズド戦略』と呼びます」(大塚氏)
では、グーグルが無償で公開することにより、世界のAIアシスタント開発に何か影響をおよぼす可能性はあるのか。
「ADKが無償で公開されると、これまで専門的な知識や多くの費用が必要だったAIアシスタント開発が、より多くの企業や個人でも簡単に行えるようになります。さらに、OpenAIも似たような開発ツールである『Agent SDK』を公開しています。このように有力な企業が競争することで、AIアシスタントの開発費用が下がったり、開発環境が良くなったりすることが期待できます。その結果、カスタマーサポート、教育、医療、製造などさまざまな分野で、AIアシスタントの活用がますます進んでいくでしょう」(大塚氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=大塚あみ/合同会社Hundreds代表)
提供元・Business Journal
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