2020年12月期には営業損益が赤字になるなど苦境に陥っていたスポーツシューズメーカー・アシックスが、21~24年12月期にかけて3期連続で営業利益が最高益を更新するなどV字復活を遂げている。ナイキやアディダスという巨人と肩を並べる存在となるべく、日本・米国・欧州の高機能ランニングシューズ市場でシェア1位になることを目標に定め、世界で新興組の米ブルックスや米デッカーズ・アウトドアの「ホカ」などと激しいシェア争いを繰り広げている。なぜ今、アシックスの業績が伸長しているのか。そして、ナイキやアディダスにキャッチアップする日は来るのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 シューズに加え、さまざまなスポーツ用品や学校の体操着・上靴なども扱ってきたこともあり、多くの日本人にとって親しみが深い企業であるアシックス。ここ数年は相次いでシューズ以外のスポーツ用品から撤退し、看板ブランドである「オニツカタイガー」をはじめとする1万5000円以上の高価格帯の高機能スポーツシューズに経営資源を注力する戦略をとっている。

 アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏はいう。

「業績伸長の起爆剤になったのは東京オリンピック・パラリンピックだと思います。アシックスは同大会ではスポーツ用品カテゴリー唯一のゴールドパートナーになっており、オフィシャルグッズなどを通じていろいろなところで露出が非常に高まりました。アシックスは20年12月期は赤字でしたが、五輪が開催された21年に黒字転換し、以降、売上も営業利益も伸びています。

 もう一つはマラソンブームです。コロナ禍を契機に健康に留意する傾向が強まり、ジョギングやマラソンをする人が日本に限らず世界レベルで非常に増えています。全売上高のうち『パフォーマンス・ランニング』カテゴリーが約50%を占めており、ランニングシューズ一本に集中して伸ばしているという印象です」

ナイキが巨大な存在に化けた理由

 アシックスが海外市場でシェアを高めていくにあたりカギとなる要素は何か。

「少し前にメジャーリーガーの大谷翔平選手との契約をアシックスが更新しなかったというニュースが出ていましたが、つまり同社が選択と集中を進めて、スポーツカテゴリーがたくさんあるなかで自社の強みはどこなのかという分析をして、不採算事業のスクラップを積極的に行っています。学用品やシューズ以外の野球用品からの撤退を決めています。ランニングカテゴリーに集中的に経営資源を投下していくという意気込みの表れでしょう。当然ながらハードルはあると思いますが、そこに向けて進んでいくというのは、決して悪い選択ではないと思います」(磯部氏)

 では、ナイキやアディダスと肩を並べる日は来るのか。

「ナイキがここまで巨大な存在に化けた理由のひとつに、ブランディングの成功があげられます。その代表例がマイケル・ジョーダンのブランド化です。現役時代のマイケル・ジョーダンの活躍とともにアップデイートされていくシーズンモデルも話題となりました。このアスリートをモデルにブランド化させた成功モデルは、ナイキ社そのもののコーポレット・アイデンティ(CI)のアップにもつながりました。アディダスのスタン・スミス然り、人気アスリートとともにシューズを作り上げて、そのアスリート名を冠にできるくらいのマーケティング力がないと、ナイキやアディダスの背中は遠いでしょう。

 そこで問題になるのが、マラソンやトラック競技などのランニングカテゴリーの競技、そしてアスリートが社会的に極めて高い人気を集められるかどうかという点です。マラソン競技全体の人気はとても盛り上がっています。日本国内では2007年には22だったフルマラソン大会の数が18年には491大会にまで増えており、それだけマラソン人口が増えているということです。土壌として非常に良い環境が整いつつありますが、スーパースターの出現、そしてそうしたアスリートとのタイアップといったプラスアルファ的な要素が必要となってきます」(磯部氏)

(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)

提供元・Business Journal

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