こうして暗黒エネルギーは、真空にほぼ一様に染み渡る定常的なエネルギー──いわゆるΛCDMモデルの中心的存在として広く受け入れられるようになりました。
ところが近年、この暗黒エネルギーが本当に変化しないのか、という疑問が再燃しています。
例えて言えば、私たちはこれまで「宇宙という巨大プールの底は完全に平ら」と思い込んでいましたが、実は“少し傾斜した床”なのではないか──すなわち時間や場所によってエネルギーの分布に微妙な変化が生じうるのではないか、という見方です。
もし暗黒エネルギーがわずかに“坂道”を下るように動いているなら、宇宙膨張の速度や将来の運命までも、私たちが従来考えてきた以上に多様なシナリオを生み出すかもしれません。
こうしたアイデアの背後には、弦理論や超重力理論など先端的な研究の数理的アプローチがあります。
真空エネルギーをきわめて厳密に構成しようとすると、完全に平らな状態(定数)を維持することはむしろ特別なケースで、少し傾いたポテンシャルをもつほうが自然かもしれないという議論が出始めました。
さらに観測の面でも、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の測定や遠方銀河の光度分布解析など精度の高いデータを調べると、「暗黒エネルギーがごくわずかに変化している兆しがある」と報告する研究が増えています。
証拠が完全に揃ったわけではありませんが、ΛCDMモデルの微調整だけでは説明しにくい観測結果が見つかり始めており、「時間変化する暗黒エネルギー」への関心が高まりつつあるわけです。
暗黒エネルギーを総当たり 仮想空間で発見された“坂道”の正体

暗黒エネルギーが実際に時間変化するかどうかを確かめようとしても、実験室でビーカーを使って測定するわけにはいきません。
そこで研究者たちが行ったのは、理論計算と数値シミュレーションによる“仮想実験”です。