確かに「褒める」ことがモチベーションの源泉になる場合もありますが、自己成長、達成感、社会貢献など、他の要因を重視する人も多くいます。「褒める」は外発的動機付けであり、内側から湧き上がる意欲(内発的動機付け)を阻害し、逆効果になることもあります。
また、「褒める」ことが部下の成長を妨げる可能性や、特定の部下だけを賞賛することで生じる不公平感が、チーム全体のモチベーション低下につながることもあります。
部下を簡単に褒めてはいけない
安藤社長は部下を褒めることの問題点について、次のように指摘しています。
「部下を全く褒めないというわけではありません。しかし、必要以上に褒めすぎると、部下は誤った認識を持ってしまい、長期的には成長の妨げになります。また、過度に褒める上司のチームは、継続的な競争力を維持するのが難しくなるでしょう」
安藤社長は具体例を挙げて、この問題をわかりやすく説明します。上司からの褒め言葉が部下の思考にどう影響するかを考えてみましょう。
「売上100%達成か。すごいね、よく頑張ったな!」
このような褒め言葉を受けた部下は、「このチームでは売上100%の達成は特別なこと」と認識し、それが当然の目標ではないという誤った基準を内面化してしまうのです。
「上司が売上100%達成を褒めることで、『あたり前』の基準がそれよりも低いレベルに設定されてしまいます。つまり、褒められる行動は特別なこととなり、それ以下が日常的な期待値になってしまうでしょう」(安藤社長)
「このように、頻繁に褒めることを習慣とする上司の組織では、『あたり前』とされる基準が徐々に下がっていってしまいます。結果として、組織全体の期待値と実力が低下していくことになるのです」(同)
部下を不必要に褒めることは避けるべきです。なぜなら、過度な褒め言葉は部下が認識する「あたり前の基準」を引き下げてしまうからです。
部下の将来の成長を考えるなら、上司がすべきことは必要以上に褒めないことです。褒めるタイミングは、部下の成果が上司の考える「あたり前の基準」を大幅に上回った場合に限定しましょう。