なお、核抑止とは、「核攻撃を受ければ報復がある」という確信を敵に抱かせることで、核攻撃や侵略を防ぐ戦略だ。そのため、抑止力が機能するためには、①核兵器の実在、②その使用意思の信憑性の2つが重要となる。
ところで、欧州には英国とフランスの両国が独自の核を保有しているが、欧州駐留の米軍基地には核が保管されており、NATOの核の抑止力となっている。例えば、ドイツには米国の戦術核兵器(B61核爆弾)がブンケル空軍基地(Buchel Air Base)に保管されている。配備されている核兵器:B61戦術核爆弾(推定10~20発)は米空軍が管理し、使用の最終決定権も米国にある。
ドイツは非核保有国だが、NATOの「核共有(Nuclear Sharing)」政策により、米国の核兵器がドイツ国内に配備されている。この核共有の枠組みでは、核兵器の管理・所有権は米国が持つが、有事の際にはドイツ空軍がトーネード戦闘機を用いて核兵器を投下する可能性がある(米大統領の承認が必要)。なお、米国の核兵器は現在、欧州ではドイツのほか、イタリア、ベルギー、オランダに保管されている。
ブンケル空軍基地の米軍の核兵器はドイツにとってロシア軍の侵略への抑止力になるが、ウクライナに対しては核の抑止力とならない。ウクライナはNATOに加盟していないため、NATOの核抑止の傘下には入っていないからだ。だから、ロシアは「米軍の核兵器がドイツにあること」を知りながらも、それをウクライナ侵攻の抑止力とは考えていないのだ。
いずれにしても、マクロン氏の発言は、米国が欧州防衛から撤退した場合の「補完的な抑止力」としての意味が強い。フランスの核抑止力はポーランドやバルト3国への侵攻は制御される可能性はあるが、NATO全体をカバーするものではない。米国の核の傘の代わりに、フランスの戦略核が欧州の核の傘の役割を担うという主張は核拡散防止条約(NPT)の制約もあって実行には難しい問題がある。