2035年に高級車ブランド「レクサス」の全車をEV(電気自動車)にすると発表していたトヨタ自動車が、その方針を撤回すると伝えられている。世界的にEVシフトの勢いが衰えるなか、トヨタの方針転換は日本の自動車メーカー各社が掲げるEV化目標に影響を与える可能性はあるのか。専門家は「一部のメーカーは事実上、EV計画を撤回しているが、速度が弱まるだけで将来的にエンジン車からEVにシフトするのは確実」と指摘する。

 世界でEVシフトが失速しているといわれている。欧州自動車工業会の調査によれば、世界のEVシフトをけん引してきた欧州の2024年のEV総販売台数は前年比マイナスに。EU各国が補助金を停止・縮小し、独メルセデス・ベンツは2030年に新車販売のすべてをEVにするとしていた目標をすでに撤回し、20年代後半にxEV(EVとプラグインHEV)を50%にすると修正。スウェーデンのボルボは30年までに完全なEVメーカーになるとしていたが、昨年9月、30年までにEVとPHEVの合計で販売比率90~100%とすると方針を修正。独フォルクスワーゲン(VW)は昨年12月、国内3万5000人以上の人員削減を発表し、背景にはEV開発への投資が重荷になっていることあるとされる。

 米国ではトランプ大統領がEV普及策の撤回を発表しているが、それに先立ちフォード・モーターは3列シートの大型SUVタイプのEV開発中止を決定しており、昨年11月にはカナダで計画中の電池材料生産の合弁事業から撤退すると発表。ゼネラル・モーターズ(GM)は昨年11月、EV事業の業績悪化を受けてミシガン州の開発拠点を含む1000人の人員削減を発表した。世界のEV市場を牽引してきたテスラの欧州販売は直近12カ月のうち10カ月で減少となっており、2月の新車登録台数は前年同月比40%減に沈んだ。

撤回は当然

 日本勢では、ホンダは「2040年に脱エンジン」を発表。世界初の量産型EV専用モデル「日産リーフ」を発売するなどEV市場をリードする存在だった日産自動車は、2030年までに欧州における乗用車のラインナップを100%EVとすること、2030年までに19車種のEVを含む27車種の電動車を投入することなどを発表。各社が意欲的な目標を掲げているが、今回のトヨタのレクサス全車EV化の撤回が、各社の計画に影響を与える可能性はあるのか。

 自動車評論家の国沢光宏氏はいう。

「影響は特にないと思います。といいますのは、世界で全社EV化をすると宣言したメーカー/ブランドは4つで、メルセデス・ベンツとボルボはすでに撤回し、あとはホンダとトヨタのレクサスですが、ホンダは昨年12月に新ハイブリッドモデルに搭載される予定の次世代技術を発表しており、事実上撤回しています。残るはレクサスだけでしたが、今回の撤回は当然だと考えられます。

 そもそも日本は政府もEV普及を推進していると誤解されがちですが、日本政府はまったくEVを推進していません。自民党の石油議連の人数を見ればわかるとおり、日本は石油利権が強く、石油をなくしたくないというのが国の大前提です。欧州をはじめとする海外から二酸化炭素を減らせと言われて、やっている部分はありますが、国全体の動きからするとEVにブレーキをかけています。たとえば、海外の主要空港にはEV充電器が100機以上設置されているのが普通ですが、羽田空港には数機しかありません。

 なので自動車メーカーは日本に限っていえば、現時点ではEVは無視していい。レクサスが一番売れているのはアメリカですが、トランプ政権になってEV普及は大きく減速しています。そこでトヨタの動きとして注目すべきは、EVが急速に普及している中国にレクサスのEVの工場建設を発表している点です。つまり、きちんと国・地域によって戦略を分けて展開しているのです」